2023年の全国人民代表大会(全人代)が閉幕し、第3期習近平政権が本格的に始動した。習近平政権は、今世紀の半ばまでに「社会主義現代化強国」を建設するという目標を掲げ、その道筋を「中国式現代化」と名付けて強調している。22年の中国共産党第20回党大会と今回の全人代、2つの重要演説から習近平の統治理念と危機感を読み解きたい。
全人代演説「強国」と「社会主義現代化強国」の関係
習近平は3月13日に開催された全人代第1回会議の閉会式で演説し、「強国の建設、民族の復興という壮大な目標は、人々を鼓舞し、奮い立たせる」と強調した。演説では「強国」について12回も言及があり、第3期習近平政権を特徴づけるキーワードとなった。
習近平は今回の全人代で国家主席に再任され、名実ともに党・軍・国家の頂点に君臨し続ける体制を保持することとなった。5年前の全人代で憲法を改正し、国家主席は2期10年までとしていた任期制限を撤廃したことによって、3期目の政権運営が実現可能になったからだ。
新たに選出された李強首相をはじめ要職に就いた多くは習近平の側近で、いわゆる「習近平思想」の旗振り役を務めてきたといえるだろう。ここでは便宜的に「習近平思想」と略記したが、正式名称は「習近平新時代中国特色社会主義思想」である。習近平の名を冠した政治理念は中国共産党の党規約と中華人民共和国憲法にも明記され、党と国家の重要思想として位置づけられている。党員の思想教育のみならず学校教育の現場でも徹底されており、小学校の1年生から必修科目として学ぶための教科書まである。
「習近平法治思想」、「習近平強軍思想」、「習近平外交思想」、「習近平新聞思想」など、これまでに次々と公開された党の文献を概観すると、「習近平思想」の本質とは、つまるところ「強国思想」と換言できるだろう。筆者がこのように指摘する根拠は、「社会主義現代化強国」にある。
習近平政権は、中華人民共和国の建国から100周年にあたる2049年までに「社会主義現代化強国」の建設を全面的に実現する目標を掲げている。前述したように、習近平が全人代閉会式の演説で「強国」を強調したのも「社会主義現代化強国」建設の文脈で、「富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国」というフレーズが幾度となく繰り返された。
閉会式の習近平演説を読み進めてみよう。習近平は、「社会主義現代化強国を全面的に建設し、中華民族の偉大なる復興を全面的に推進することは、全党と全国人民の中心的な任務である。強国の建設、民族の復興というバトンは、歴史的に我々の世代に渡されたのだ」と発言した。また、「中国式現代化建設の推進を加速させなければならず、(中略)強国の建設、民族の復興の推進のために、我々世代のしかるべき貢献を果たさなければならない」と強調した。