「習近平新時代中国特色社会主義思想」という名称が象徴するように、習近平は現体制を「新時代」と位置づけ、新たな時代に「社会主義現代化強国」を建設するという国家目標を掲げて、その道筋を「中国式現代化」と称している。これらは22年10月に開催された中国共産党第20回党大会の基本方針を再提起した内容で、特に目新しいものではない。全人代閉会式の演説は、昨年に比べて短時間だったが、政治理念について言うべきことはすでに党大会の演説で言い尽くされたと見ることもできる。
党大会での「中国式現代化」と「人類文明の新形態」
習近平政権が提起した「中国式現代化」とは何を意味するのか。本来、中国語の「現代化」は、日本語では「近代化」と翻訳すべきだが、日本語のメディアでも「中国式現代化」という表記が一般的になったので、本稿でも原文のままとする。
かつて、周恩来が1975年の全人代政府活動報告で提起した「四つの現代化」は、工業・農業・科学技術・国防の「現代化」を意味した。それでは、習近平政権の「中国式現代化」とは具体的にどのような理念なのだろうか。
ここでは、22年の第20回党大会における習近平報告を振り返ってみよう。「新時代の新たな道程における中国共産党の使命と任務」について言及した際に、「中国式現代化とは、中国共産党が指導する社会主義現代化であり、各国の現代化に共通する特徴を持つだけでなく、自らの国情に基づいた中国の特色も備えている」と述べた。
具体的な内容について説明している該当部分は約1000文字に及ぶが、「中国式現代化は、」から始まる5つの段落の冒頭部分を挙げると、以下のとおりである。
中国式現代化は、全人民の共同富裕を目指す現代化である。
中国式現代化は、物質文明と精神文明の調和がとれた現代化である。
中国式現代化は、人と自然の調和と共生を目指す現代化である。
中国式現代化は、平和的発展の道を歩む現代化である。
これらの説明に続き、習近平報告は「中国式現代化」について「9つの本質的な要請」があるとして、以下のように述べた。「9つの本質的な要請」を訳出すると次のとおりである。
ここで指摘すべきは、「中国式現代化」とは、中国における「社会主義現代化強国」の全面的建設を目指すための指針であるだけでなく、「人類運命共同体の構築を推進し、人類文明の新形態を創造する」と明確に提起されたことである。筆者が特に注目したのは、「人類文明の新形態」というフレーズだ。
これまで習近平は、国連総会の演説をはじめとする主要な外交舞台や国内の政治活動の場において「人類運命共同体」の理念を提唱してきた。しかしながら、「人類運命共同体」から「人類文明」というさらに壮大な構想にまで飛躍させたことは、習近平政権の政治理念が国内統治のみならず国際社会までも視野に入れた重要な変化として留意したい。「中国式現代化」は、「社会主義現代化強国」の建設を目指す中国の統治理念であるだけでなく、新たな「発展モデル」として人類全体の「共同体」や「文明」にまで寄与するものと考えているのだ。