こうした「価値」をめぐる習近平政権の統治方針は、前述した「人類文明の新形態」の構想にも通ずるといえよう。習近平政権は、「中国式現代化」によって「社会主義現代化強国」の建設を目指すだけでなく、国際秩序の再構築まで視野に入れた「人類文明の新形態」を構想している。これは、習近平政権の覇権主義的な国際戦略として見ることもできるが、筆者はむしろ危機感の裏返しだと考えている。
「中国共産党は変色してはならない」習近平の本音
異例の長期政権をスタートさせた習近平政権だが、国内外の情勢を見れば、中国共産党による統治の正統性を確保し、現体制を維持することは容易ではない。全人代の演説では、「安全は発展の基礎であり、安定は強さの前提である」と述べた。
これは国家の安全について言及したもので、国防と軍隊の現代化を強調している点から安全保障における強軍路線が注目されている。だが、同時に考えるべきは、「安全」と「安定」を最も必要としているのは、中国共産党政権にほかならないということだ。
22年の党大会報告と今回の全人代の演説を精読すると、共通する文言の中から習近平の本音を垣間見ることができる。それは「党が永遠に変質せず、変色せず、風味が変わらないこと」というフレーズだ。
全人代の演説では、「党の団結と統一を一貫して保ち、党が永遠に変質せず、変色せず、風味が変わらないことを確保し、強国の建設と民族の復興のために強固な保証を提供しなければならない」と強調した。習近平が最も危機感を抱いているのは、「普遍的価値」によって中国共産党の「紅色」が色褪せてしまうことなのだろう。
「社会主義現代化強国」、「中国式現代化」などの政治スローガンは、中国共産党の「紅色」を鮮明に保ち、人民の支持を得るために必要なのだ。しかし、国際社会だけでなく、中国社会もまた急速に多様化し、複雑化している。少子高齢化が加速する中国社会で、経済の発展と社会の安定を確保することは困難極まりない課題だ。
中国社会の変容は、中国共産党の「紅色」にどのような変化をもたらすだろうか。今後、習近平政権は色鮮やかな「紅色」を変質させることなく一貫して保つことができるだろうか。一方、習近平政権が掲げる「人類文明の新形態」は、どのような色彩で描かれるのだろうか。多様性が尊重され複雑な色彩をもつ国際社会は、中国共産党の「紅色」だけで染められるものではない。
混迷を極める国際情勢のもと、習近平が率いる中国のさらなる影響力の拡大が注目されている。本格始動した第3期習近平政権の行く末について考察する際には、中国共産党の「紅色」の彩度とその変容にも注目していきたい。