厚生労働省が2月に発表した2022年の出生数は79万9728人で1988年の統計開始以来、初めて80万人を下回り、過去最小を更新した。17年の国立社会保障・人口問題研究所の推計では出生数が33年に80万人を割るとしていたが、11年も早く更新したことになる。このまま人口が減少し、国力は衰えていくのだろうか。
2050年の衰退した日本を予測したディストピアSFとでもいうべき小説が『食われる国』(中央公論社)である。2050年、中国資本が大量に流入し、かつて栄えた都市も廃墟と化した中で一人の刑事が日本で暗躍する中国共産党の配下組織に嵌められ、中国資本で運営されている民間刑務所に収容される。犯罪者の更生教育という名目のもと、中国共産党の思想に洗脳されていく様を描いた傑作小説である。
主人公である刑事、谷悠斗が日本政府から中国資本に運営を委託された民間刑務所「黒羽教育センター」で受ける中国共産党を正当化するための洗脳シーンは、非常に説得力があり、筆者も思わず洗脳されそうになるほどである。黒羽教育センター教官の言葉「ハワイ併合やテキサス独立の話を教室で先生から聞きますか。原爆を二つも落とした国なのに、アメリカに都合の悪い事実は隠され、アメリカに親しみと憧れを抱くように仕向けられている。それは洗脳ではありませんか」は、改めて米国のしたたかさを思い出させてくれる。
政府が中国資本に刑務所の運営を任せることなどあり得ないと感じる日本人は多いだろうが、それはそういう事態を想定していなかった上に、今まで、そうしたことが起こらなかったからに過ぎないことを改めて思い知らされる。刑務所の運営委託業務も政府が何事にも適応させている「最低価格落札方式」を取れば、中国資本が落札することも十分ありえるのだ。
事実、警察で使用されているPCやセキュリティソフトには「最低落札価格方式」が採用されているため、中国製PCやロシア製のセキュリティソフトが使用されている例は多い。小説の中にしばしば登場するスマホ「エア」も著者の萩耿介氏によると中国製という設定だそうだ。警察で採用されている捜査用スマホも私物のスマホも「エア」という設定で、位置情報や会話の内容など、すべて中国に筒抜けになっている状態は、現在進行形と言っていいだろう。