2024年11月22日(金)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年3月10日

 著者の萩耿介氏は、数年前にチベットに行き、街中至る所に監視カメラがあり、軍事車両が警戒に当たっている様を目の当たりにしたことで、中国共産党の欺瞞と恐ろしさを、日本を舞台にして描けないかと思ったそうである。英国の作家ジョージ・オーウェルが1949年に出版したディストピアSF小説『1984』は、小説の舞台を英国においているものの、スターリンを念頭に共産主義やファシズムの倒錯を暴露する目的で書かれた。そうであれば、習近平と向き合った作品も書くべきだと思ったそうだ。

 一方で、「日本の小説界は、大半が私生活にしか関心のない書き手と読み手で成り立っていて、それこそ純粋な文学であるという人たちの避難場所になっている。彼らは口癖のように『弱者に寄り添う』と言いますが、チベットやウイグルの人たちの苦難にはほとんど反応せず、私生活での平穏を尊び、慰め合っているようです」とも語っている。

 筆者はその意見に、全く同意する。この小説は、そういう意味でも、近年まれに見る傑作小説だといえる。

現実として訪れる時はすぐ近くに

 中国では、2月28日に中国共産党第20回中央委員会第20回総会が終了したが、中国政府の公安部として知られる国務院国家安全部が、国務院に所属しなくなると香港の明報新聞が報じている。その報道の真偽は組織改革案の提出を待つほかないが、仮にその報道が正しければ、公安機能を政府から切り離し、中国共産党の配下に置こうとしていると思われる。

 もとより中国政府から独立している統一戦線工作部と一体化し、全ての公安機能を習近平の意のままにしようということである。もしその組織改革が実現すれば、今以上に日本への浸透工作も活発に行われることになるだろう。

 本書は、2050年という時代設定だが、日本の少子化と同様に、想定よりも現実がはるかに早いかも知れない。続編を期待する。

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