2024年12月7日(土)

バイデンのアメリカ

2023年3月9日

 米国では最近、台湾有事ともからめ、中国が混迷化する「ウクライナ戦争」から何を学んだかについての論議が活発化しつつある。

(ロイター/アフロ)

西側の対応を学習材料とする中国 

 ロシア軍のウクライナ侵略から1年――。戦争が長期化する中で、バイデン政権にとっての直近の最大関心事は、中国が対露軍事支援に踏み切るかどうかに集まっている。

 しかしそれとは別に、中国は今次戦争そのものをどう見てきたかの論議も無視できない。

 米側専門家の間では、①侵攻開始20日前に中露首脳会談が行われたにもかかわらず、プーチン大統領から習近平国家主席に事前通報もなく、中国側を困惑させた、②ロシア側は十分な準備なしに侵攻作戦に乗り出したため、苦戦を強いられてきた、③世界の目がアジアにおける〝第二のウクライナ・シナリオ〟として、にわかに中国の台湾進攻問題に集まり始め、中国側は意表を突かれた、④中国は世界世論と対露友好関係重視の間で今後難しい対応を迫られている――などの見方が目立つ。

 では中国は、具体的に「ウクライナ戦争」からどんな教訓を学んできたのか。

 伝統ある外交問題専門誌「Foreign Affairs」(電子版)は去る先月14日号で、エヴァン・ファイゲンバウム「カーネギー財団」副所長らによる「米国主導の秩序維持で多国間結束が続く限り、(中国のような)大国といえども、経済戦争から難を逃れられない」と結論付けた以下のような分析記事を掲げた:

 「ロシアがクリミア半島を占領した2014~15年のウクライナ危機当時、西側諸国はロシア側にそのコストを負担させ、行動を再考させ、停戦交渉を有利に進めるために、何カ月もかけて慎重な対露制裁を画策してきた。ところが、22年、プーチンがウクライナ領のさらなる拡大のみならず、国全体の占領に乗り出した途端、西側の対露制裁は直ちに大規模かつ全面的経済戦争へと化していった。豪州、カナダ、日本、英国、米国に至る同盟諸国が、ロシアのすべての外貨準備金の凍結を発表し、ロシアを国際送金システム『SWIFT』から締め出した。このことから中国は、新たな教訓を学んだ」

 「ウクライナ侵攻開始当時、ロシアは日産1100万バレルの石油産出国であり、国内総生産(GDP)世界第10位の経済大国であり、地政学的にも、中国同様に核保有の国連安全保障理事会常任理事国として、もろもろのグローバル組織に関与してきた。中国の経済規模はロシアの10倍と巨大であり、グローバル経済特に、貿易,投資、キャッシュフローなど米国とのつながりの面でも、ロシアとは比べものにならないほど甚大であることは事実だ。しかし、もしその中国指導部が、自国ほどの第一級経済国は巨大すぎて、(台湾などの国際危機の際に)制裁対象外となると考えたとしたら、昨年の出来事は心穏やかならざるものになったはずだ」

 「中国は(ウクライナでの教訓から)、仮に台湾侵攻に踏み切った場合、多大な経済的リスクゆえに西側政界が対中制裁を踏みとどまるとは推定できなくなった。なぜなら、米国および欧州同盟諸国は、アジアで第7位の経済規模を誇り、グローバル・サプライチェーンとの重要なリンク役を果たしている台湾と比較しても小規模な経済国でしかないウクライナに対してさえ、国家的かつグローバルなリスクを冒してまで支援に乗り出したからに他ならない。すなわち、西側の主だった制裁は弱小国に限定され、(中国のような)主要国に対する制裁は軽微なものにとどまる保証はなくなったのだ」

 「実際のところ、北京指導部は、ロシアのウクライナ侵攻に対する西側の迅速かつ猛烈な反応ぶりに驚かされた。14年ウクライナ危機の際は、習近平、プーチン両首脳は、西側世界特に欧州およびアジアの多くの国がリスクを恐れ、ロシアに対する大規模制裁を回避しようとしたことを教訓として記憶している。しかし、今回は別だった。これらの諸国は、ロシア軍戦車が首都キーウに侵入すると間髪入れず、死活的に重要なロシア産石油、天然ガス輸入制限措置に踏み切り、輸入した場合でも上限価格設定で合意するなど共同制裁で足並みを揃えた。中国は、関係各国が国際秩序に対する甚大な脅威に対しては、たとえコストを伴う場合でも制裁を厭わないという、まごうことなき教訓を学んだはずだ」

 しかし、中国が上記のような教訓をウクライナで学んだとしても、それは、近い将来、台湾武力統一の延期や断念を意味するわけでは断じてない。むしろ、その逆に、今回露呈したロシア軍の対ウクライナ作戦の欠陥ぶり、西側諸国の反応を十二分に研究、分析し、台湾進攻作戦をより精巧なものにするための恰好の学習材料とみていることは確実だ。


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