2024年4月25日(木)

バイデンのアメリカ

2023年3月9日

吟味される台湾とウクライナの違い

 ただ、ロシアにとってのウクライナと、中国にとっての台湾との間には、国勢、地政学上など、さまざまな違いがある。このため、もし中国が近い将来、台湾侵攻に踏み切った場合、ウクライナの教訓がただちにそのまま生かされるわけでもないことは自明の理だ。

 たとえば、ウクライナは人口4200万人で国土面積約60万平方キロメートル(日本の1.6倍)と広大なうえ、東欧、NATO諸国とは地続きだ。陸海空軍合わせ最大兵員数24万人、予備役100万人であり、周辺諸国ではロシアに次ぐ兵力規模を維持している。

 これに対し、かつて「中華民国」と呼ばれた台湾は今日、国際的に独立国ではなく国連でも「地域」扱いを受けている。人口2300万人で面積は約3万平方キロメートルと、ウクライナの20分の1に過ぎず、周囲を海に囲まれ孤立状態にあり、しかも中国本土とは至近距離にある。

 これらの点だけを見る限り、中国は、ウクライナで苦戦するロシアに比べ、台湾侵攻上、条件としては優位に立っているとみることもできる。

 しかし、中国にとって、難題もある。①台湾島民の大半が中国大陸への帰属を望んでいない、②台湾はウクライナとは異なり地理的には孤立しているが、米国、日本、カナダ、豪州などの主要国と太い経済的結びつきがある、③台湾は地形的に、平野の多いウクライナと異なり、山地、丘陵地、盆地、台地、平野からなり、山地、丘陵地が全島面積の3分の2を占めているため、中国軍にとって侵攻、占領は容易でない、④台湾の経済力とくに半導体をはじめとする最先端テクノロジーが世界に果たす役割は増大しつつあり、有事となった場合、世界経済全体に深刻な影響が及ぶ恐れがある、⑤このため、軍事最強国米国も以前にもまして、台湾安全保障に重大な関心を示している――などだ。

 結論として、中国は今後も、ウクライナ戦争の展開を引き続き注意深く見守ると同時に、軍事も含めた台湾政策を長期かつ多角的視野で検討していくことを迫られている。 

 
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