ロシア軍のウクライナ侵攻開始から1年。中国がここにきて戦闘停止と和平の仲介に向け積極的な姿勢を見せ始めた。2月24日には、ウクライナ危機の政治解決に向けた「中国の立場」を示す文書を発表し、エスカレーション抑止を呼びかけた。
モスクワでプーチン大統領と会談した王毅共産党政治局員は今春にも予定される習近平国家主席の訪露の地ならしを行ったとみられ、ゼレンスキー大統領も中国の仲介は「心強い」として会合を希望している。
1年の死傷者数は32万人超。戦争の先行きが見えない中で、両国の最大貿易相手国でもある中国の和平案は事態を好転させる期待感がある。しかし、プーチン政権寄りの姿勢を見せれば、ウクライナは反発し、このことをきっかけに一気に西側諸国と対峙する中露ブロック結成につながるリスクもはらむ。
ロシア、ウクライナともに関係を深めていた中国
フランス、イタリア、ハンガリー、ドイツ、ロシアの欧州歴訪を行った王氏は各地で和平の重要性を訴え、「北京政府がウクライナ紛争の迅速な平和的解決に関心を持っており、最も積極的な役割を果たす準備ができている」と語った。
イタリアでタヤーニ副首相兼外相と会談した際には、悪化する戦況を踏まえ、「状況が混乱すればするほど、より多くの政治的、外交的努力を払わなければならない」と戦闘の速やかな停止を訴えた。
これまで両国の交渉による解決を呼びかけるだけで、どちらかと言えば仲介に及び腰だった中国の姿勢に変化が起こった理由には、①戦争によって不確実性が高まり、長期化は中国の発展や国内情勢にもマイナス面をもたらす、②ウクライナ危機の解決に関与し、欧米への発言力を高める、③大国としてのイメージをあげ、アフリカ・アジアなどの「グローバルサウス」諸国への影響力を高める――ことが背景にあるとみられる。
中国は1996年に「戦略的パートナーシップ」を表明し、2001年に「中露善隣友好協力条約」を締結してロシアとの関係を強化してきた。中国税関総署によると、22年の中露貿易額は1903億ドル(約24兆円)と前年比3割増え、2年連続で最高を更新した。中国は欧米の対露制裁により、行き場を失ったロシアの石油・天然ガスを購入し、戦争1年目のロシアの国家財政を支えた。
侵攻開始直前の昨年2月、プーチン氏は訪問前に新華社通信に論文を寄稿し、「ロシアと中国は国際情勢を安定化させる役割を担っている」と両国関係の重要性を訴えた。それだけに中国がとる姿勢は、「プーチンの戦争」がどのように展開して、どのような結末を迎えるのか、そして、「戦後」の国際秩序形成がどのように進捗するのかを図るうえでも重要とされてきた。
一方で、14年の首都キーウの中心部を占拠した市民と治安部隊が衝突した「マイダン革命」以降、脱ロシアが顕著になったウクライナにとっても、国内のあらゆる社会・経済層で中国の存在感は増していた。