21年4月、ゼレンスキー政権は中国のシノバック・バイオテック(科興控股生物技術)が開発した新型コロナウイルスワクチンの使用を承認。パンデミックが拡大する中で、ウクライナは欧州諸国の中でもワクチン接種プログラムは後れを取っており、保健省は声明で「このワクチンは信頼できる」と説明した。自らの影響力を高めようとする中国の「ワクチン外交」を受け入れた。
21年3月には今後のさらなる発展を促進させるため、中国国民を対象にビザ(査証)を免除することを決めた。22年は奇しくも両国が国交を樹立して30年にあたり、ゼレンスキー大統領と習主席が正月に30周年を祝う電報を交換している。
これまで、両国の仲裁にはトルコのエルドアン大統領が間に入り、精力を注いできた。昨年8月には、アフリカ諸国などでの食糧危機打開のため、黒海上に安全な海の回廊を作って、タンカー船の航行を再開させるなどの成功例はあったが、戦闘停止にまで至ることはなかった。むしろ、犠牲者数は膨らむ一方だった。
習近平の和平12提案の意味
ウクライナ側に第一印象として中国の和平案への期待感が広がったのは、王氏がミュンヘンでウクライナのクレバ外相とも会談し、この戦争におけるウクライナ側の譲れない一線に理解を示したことだ。クレバ外相は「中国は戦略的パートナー」と述べ、「領土保全の原則は両国にとって神聖であることを確認した」のだという。
23日、記者会見に応じたゼレンスキー大統領は習氏との会談の可能性に関する質問にふれ、「中国との会合を希望する。こうした会合は現在、ウクライナの国益にかなう」「大きな影響力を持つ国を含む多くの国が、ウクライナの主権を尊重しながら戦争終結に向けた方法を検討すれば、より早く実現する」と語った。
中国は、侵攻2年目にあたる24日の記念日に、ウクライナ危機の政治解決に向けた立場を示す文書を発表した。和平に向け12の提案があり、即時停戦やエスカレーション抑止のための両国の直接会談の再開、各国の主権尊重や小麦輸出のための安全な海の回廊設置まで盛り込んだ。「中国は建設的な役割を果たしたい」とも記された。
和平案はロシア、ウクライナ双方受け入れ可能な条件でなければならない。今回の和平案には、実際にどうやって戦闘停止まで持ち込むのかのメカニズムや具体策は記されておらず、実現にはまだまだハードルが立ちはだかる。さらに春にも予想されるロシア側の大規模攻勢や、ウクライナ側の反撃を抑止できるかどうかにも疑問符が付く。
一方、米国のブリンケン国務長官は独ミュンヘンでの安全保障会議で王氏と会談した際、中国がロシアに「殺傷力のある兵器」を渡す動きがあるとして、くぎを刺した。多くの専門家が中国が示す和平案はロシア寄りになるかもしれないと懸念を抱く。
しかし、損失が膨らむロシア側はこの1年間でも中国に秋波を送っている。王氏のモスクワ訪問でもその姿勢が色濃くにじみ出る場面があった。