王氏と会談したロシア国家安全保障会議のパトルシェフ書紀は「ロシアは、台湾、新疆ウイグル、香港の問題で中国政府を支持している。西側諸国は中国の信用を傷つけるために利用している」と習氏の統治を評価しているような忖度を見せた。ロシアがあからさまに台湾問題について言及するようになったのもこの1年で顕著になっている。
また、パトルシェフ氏は露中関係のさらなる深化を強調し、こう言って第三国の中露ブロックへの支持を呼び掛けた。
「露中はより公正な世界秩序を支持し、『自由で主権を重んじる発展の道』を選択する国家の増加を歓迎する」
ロシア国内でもあがる懸念
もし、中国の仲介がロシアに偏ったものとなれば、ウクライナ側も西側も大きく反発することは間違いない。侵攻2年目を迎え、火中の栗を拾うことに乗り出した中国が結局はウクライナ側に十分な配慮を示せず、仲介が失敗におわれば、「やはり中国は権威主義でロシアと結びついた」として民主主義陣営との対立が鮮明化。21世紀の新冷戦の訪れを告げる大きな出来事になるかもしれない。
米国は中露ブロックの強固な結びつきを警戒している。ウクライナ情勢だけでなく、将来の台湾有事をふまえ、アジア各国でも懸念が広がる。ロシアと中国の関係の深化、言うなれば軍事同盟化の到来を指摘する声はロシア側にも出ている。
昨年3月、ロシアの軍事評論家、ワシリー・カシン氏は「グローバル政治におけるロシア」のサイトで発表した論文で、こう記した。
「(ロシアと中国の軍事同盟については)恐らく当面は持ち上がることはない」が、しかし「仮説としては、正式な露中軍事同盟が出現する可能性や、太平洋で軍事的危機が生じた場合に応じた軍事的連携を行う可能性を排除することはできない」
「台湾をめぐる危機が生じた場合に、米国の干渉を阻止するためにロシアの『核の傘』に中国が関心を寄せるであろうことを考えると、極めて現実的である」
今春、モスクワを訪れる予定の習氏がプーチン氏とウクライナ情勢をめぐって、どのような会話を交わすかを注目したい。
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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