教訓となった〝ロシアの失敗〟
この点に関連して注目されるのは、イェンス・ストルテンベルグ北大西洋条約機構(NATO)事務総長の発言だ。
同事務総長は去る2月1日、来日した際、慶應義塾大学での講演で、台湾有事を念頭に「中国はロシアによるウクライナ侵略作戦を極めて注意深く観察、学習しており、その結果が(台湾侵攻のような)インド太平洋のパワー・バランスを揺るがす同国の将来の政策決定に影響を与えることになる」と警告。さらに具体的に以下のように述べた:
「もし、ロシアのプーチン大統領が今回の戦争で勝利すれば、中露両国とも強引な武力行使によって目的を達成できるとのメッセージを発することになる。その結果、世界はより危険で、脆弱性をさらけ出す。中国はNATOの敵国ではないが、より一段と権威主義国家の体をなしつつあり、一連の覇権的強圧的政策は欧州大西洋そしてインド太平洋地域に重大な安全保障上の結果をもたらしかねない。また、中露両国は近年、軍事面での関係緊密化、日本近海における海空両面での合同軍事演習などを含む戦略的パートナーシップを強化しつつある点も懸念材料だ。これに対処するには、地域ではなくグローバルな協力関係が不可欠であり、NATO諸国と日本などアジア諸国との関係強化が望まれる」
ではこれまで、戦争作戦面で中国側は具体的に何を学んだのか。
この点に関し、2月24日付の米「TIME」誌(電子版)は、ロシア軍が短期決戦で勝利できなかった「4大要因」として以下の点を挙げているが、これらは台湾武力統一の可能性も排除しない中国軍部にとっても、無視できない重要な教訓になっていると推察される:
① 兵站面での長期計画欠如=ロシア軍は当初、「作戦開始後数週間での目的達成」を確信していた。従って、長期戦に備えた兵站支援の備えが不十分だった。メイソン・クラーク「戦争問題研究所」上級研究員は「軍指導部のみならず、クレムリンも、戦争がこれだけ長期化し、しかも戦線も拡大することを予測できなかった」と述べている
② ウクライナ側レジスタンスの過小評価=マーク・キャンシアール「米戦略国際問題研究所」(CSIS)上級顧問によると、ロシア軍侵攻直前までのゼレンスキー・ウクライナ大統領の国内支持率は27%と低迷し、ウクライナ国民自体も政府不信を募らせていた。このため、プーチン氏は電撃作戦によって、ゼレンスキー政権は短期崩壊を招き、容易に占領できると読んでいた。侵攻当時、そのゼレンスキー氏がよもや『第2次大戦におけるチャーチル以来の偉大なリーダー』になると予言していたとしたら、笑い飛ばされていたはずだ。いかなる戦争であれ、長期戦となった場合、国のリーダーシップが極めて重要なカギとなることを示した。
③ NATO結束の読み違え=14年ウクライナ危機の際、西側諸国の反応はバラバラかつ優柔不断だったため、クレムリンは同程度の反応しか予想していなかった。ところが、今回の場合、欧州およびアジア同盟諸国は侵攻開始後、短期間のうちにつぎつぎに対露経済制裁に踏み切った。さらにNATO諸国は制裁のみならず、軍事面でも果敢にウクライナ支援に乗り出した。中でも米国は、すでに249億ドルもの対ウクライナ軍事支援を行っており、米国防総省も今後、20億ドルの長期軍事支援を約束している。
④ 兵器・弾薬類の大量損失=ウクライナ軍は米国製最新鋭ロケットシステム「HIMARS」投入により、国内各地のロシア軍兵器・弾薬庫多数を破壊した。それ以降、ロシア軍は被害を最小限にとどめるため、前線から離れた作戦地域に弾薬類を移し替えたが、この
結果、必要時に前線基地にタイムリーに兵站支援することが困難になった。このため、ロシア軍は今後、長期戦に備えた作戦練り直しを迫られている。