米議会を中心に対中強硬論が盛り上がる中、中国との経済・貿易を手控える「デカップリング」論を非現実的だとする指摘が、米国有識者の間で出始めている。
「対中政策は機能していない」
もともと対中国「デカップリング」論は、今世紀に入り、経済成長と軍事力増強を続ける中国が、米国にとっての「脅威」となり始めたのと機を一にして政財界関係者の間で話題に上り始めた。そこに火をつけたのが、「米国第一主義」を唱えたトランプ前政権だった。
そして2021年1月に発足したバイデン政権も、中国を「最も深刻な競争相手」と公式に位置付けて以来、対中通商・貿易政策の従来通りの継続に対する懐疑論に発展、最近では、ハイテク分野の輸出管理や対米投資について審査強化の動きが加速しつつある。
こうした中、有力誌『フォーリン・アフェアーズ』(電子版)最新号は、ヘンリー・ポールソン元財務長官による「対中政策は機能していない――デカップリング拡大の危険」と題する注目すべき寄稿文を掲載した。かつて世界最大の投資会社ゴールドマン・サックスCEOをも務めたポールソン氏は、米中デカップリングは実際には現実性を欠くばかりか、それがエスカレートしていった場合、世界経済に深刻な影響を及ぼすとして、要旨以下のように警告している:
「中国指導体制は今日、対外攻勢を強め、その経済規模も08年当時の3倍以上に拡大させると同時に、敵対的諸政策追及能力を保持するに至っている。一方で、国内経済は西側が望むほどに開放されていないことから、米国の対中姿勢は、ワシントン政治にみられる通り、極度に否定的になってきた。しかし、変わらない事実がある。それは、共通利益追求のための協力を可能とする安定的米中関係が存在しなくなった場合、世界は極めて危険で、繁栄が損なわれるということである」
「ところが、23年を迎え、米中関係は、雇用拡大のための投資、イノベーションなどかつては好意的に見なされていた分野までを含めあらゆる面において安全保障のプリズムを通して論じられている。中国側は米国の輸出規制を自国経済成長への脅威ととらえる一方、米政府は、中国の技術能力に関するあらゆる取引を戦略的競争相手の台頭と軍事力増強を利するものとみなし、アジア、欧州同盟諸国にも対中輸出の自制を呼びかけてきた。しかし、こうした取り組みは、実際は機能していないばかりか、双方にとってマイナスであり、また、長期的に見た場合、それによってこうむる米国民の損害の方が中国側よりはるかに大きい」
「実際のところ、同盟国はじめ多くの国は、ワシントンが求めるタカ派路線とは真逆の政策を進めており、対中デカップリングどころか、対中貿易を拡大、深化させつつある。彼らは、極めてセンシティブな対中技術移転や中国からの投資に対し慎重になってきてはいるが、米国ほど広範囲にわたる対中封じ込めなどにはくみしていない。その結果、欧州連合(EU)にとって中国は今や米国に代わり最大貿易相手国となった。欧州、アジア諸国首脳は、ショルツ独首相の訪中を皮切りに相次いで習近平国家主席もうでを続けている。さらには、中東主要産油国サウジアラビア、アジアの巨大民主主義国インドネシアまで、アリババ、ファーウェイといった中国のハイテク企業との協力関係を促進させており、今や中国の〝全方位戦略〟が、ワシントンの対中依存軽減戦略と対等なレベルに達しつつある」