「もとより、ロシアのウクライナ戦争、台湾に対する中国の脅しなどをきっかけに高まりつつある米中安全保障関係の緊張が容易に氷解するわけではなく、当面、抑止力強化のために同盟、友好諸国との関係改善が不可欠となる。ところが、これらの諸国は中国の孤立化、封じ込めを決して欲していない。すなわち、ワシントンは、世界が中国とのかかわりを閉ざすことを拒否しているというメッセージを受け止めるべきである。また、国内的に見ても、戦略的に重要でもない製品や技術の米中貿易まで規制することは、中国からの供給に依存する多くの企業を苦しめ、ひいては雇用喪失を招くことになりかねない……たしかにハイテクなど特定分野におけるデカップリングはある程度は不可避であろう。しかし、世界第2位の経済大国であり、巨大市場を有する中国相手に際限ないデカップリング政策をとることは、害あって益なしというべきだ。最近、米議会を中心に〝対中懲罰〟論が台頭しつつあるが、バイデン政権は毅然とした、節度ある対中政策を推進することが望まれる」
数字が見せる米中貿易関係
また、アリゾナ州立大学のアレン・モリソン経営学部教授、インシアード経営大学院のスチュアート・ブラック教授は、共同執筆による近著『Enterprise China』の中で、デカップリング問題に触れ「純粋に経済的観点からいえば、デカップリングは中国、西側諸国の双方にとってwin-winではなくlose-loseのシナリオを意味する」「核戦争の際の『相互確証破壊』とは異なるものの、双方がこの政策を強化していけば、それは理性ある人々の望まない結果を招く」などとして、お互いに慎重な態度で臨むべきだと指摘している。
この点に関連して、興味深いのは、デカップリング論議をよそに、皮肉にも米中間貿易が最近、以前にもまして拡大していることを伝えた1月17日付けのブルンバーグ・ニュース記事だ。
「米中貿易量がデカップリングを無視し、記録的規模に」との見出しで始まる同記事は、以下のような点を挙げている:
① 中国政府が公表したデータによると、昨年1年間の両国間貿易総額は7600億ドル近くの記録的規模になった
② 米政府側の昨年11月までの統計でも、これまでにない貿易量を示している
③ これらの数字は、中国との貿易を制限する超党派の動きがワシントンで出ている時だけに刮目すべきであり、両国の経済的結びつきがいかに密接であるかを示している
④ ただ、中国は台湾海峡、南シナ海において威圧的態度をとり続ける一方、米側が半導体テクノロジーへの中国のアクセスを拒否するという現在の双方の反目が容易に解決できる見通しはない
⑤ では、両国が今後も、テクノロジー分野の〝戦争〟を続けながらも、それ以外のすべての分野において旺盛な貿易関係を継続できるかといえば、答えは「イエス」だ。ブルッキングズ研究所のデイビッド・ダラー上級研究員も「それを双方の関連企業が期待しているのみならず、経済効率性に基づいているからであり、消費者に確実にモノ、サービスを届けることを可能とするからだ」と述べている
⑥ ワシントンでは、威勢のいい「過酷なデカップリング」を求める動きがあるが、その言いなりになれば、やがては米国の生活水準の低下を招くことになる。輸出依存型経済成長が自国の生活水準と経済的安定のカギとなっている中国の場合も同様だ