■今回の一冊■
Danger Zone
筆者 Michael Beckley、 Hal Brands 出版 W.W. Norton
中国が台湾へ侵攻し米国と戦争するとしたら、それは2020年代に起きうる。中国が近い将来に暴走する可能性に警鐘を鳴らす書だ。
2025年1月中旬に中国人民解放軍が台湾への侵攻に踏み切る。本書はいきなり大胆かつ最悪のシナリオから書き起こす。そのとき米国では24年の大統領選の結果をめぐって分断が深まり、大統領の就任式の直前になっても混乱が続いている。その隙をついて、中国が大きな賭けに出るという最悪の事態を想定する。
本の売れ行きをよくするためにセンセーショナルな書き出しにしたと勘ぐる読者も多いだろう。しかし、外交・安全保障を研究する米国の学者2人がまとめた真面目な本だ。冒頭で衝撃的なシナリオを提示しているのも、最悪の事態が起きるリスクが最も大きくなるのは、ここ10年以内のことだと切迫感をもって警告するためだ。
野望と絶望が交差する時に惨事は起こる
本書の主張はいたって明解だ。大国は国力がピークを迎え、衰えを感じ始めたときに、焦りから危険な賭けに踏み切る。だから、人口動態の面からも経済的な衰退が見え始めている今こそ、中国は暴走する危険度が高まっている、というのだ。
Countries that fear they are being encircled by rivals make desperate bids to break the ring. Some of the bloodiest wars in history have been started not by rising, self-assured powers, but by countries—such as Germany in 1914 or Japan in 1941—that had peaked and begun to decline. Vladimir Putin’s recent wars in the former Soviet Union fit this same mold.
「国家というものは、ライバルに取り囲まれたと感じたときに自暴自棄になり包囲網を破ろうとする。歴史をみても、凄惨な戦争の数々は、自信に満ちた昇り調子の国家が始めたものではない。1914年当時のドイツや1941年の日本を思い起こしてほしい。国力がピークを過ぎ衰え始めた国々が悲惨な戦争をはじめるのだ。ウラジミール・プーチンがこれまで旧ソ連の領域内で引き起こしてきた戦争も同じ範疇に入る」
The greatest geopolitical catastrophes occur at the intersection of ambition and desperation. Xi Jinping’s China will soon be driven by plenty of both.
「地政学上の最悪の惨事は野望と絶望が交差する時に起きる。習近平の中国はじきに、たくさんの野望と絶望にかりたてられる」
順調に経済が拡大し昇り調子の時、大国は自信と夢に満ちて余裕がある。国力が高まっているときは国民も豊かになり、希望を持ち希望が膨らむ。しかし、国力の伸びに陰りが見え始めると夢の実現が難しくなり焦りが生まれる。いちかばちかの賭けにうって出るリスクが高まるのだ。