2024年11月21日(木)

21世紀の安全保障論

2022年12月26日

 防衛力強化に向けた財源問題をめぐって、自民党の閣僚を含む一部議員から不協和音が噴出、呼応するようにネット上でも「増税を言い出す前に歳出カットだ」といった政府批判が続出している。戦後の安保政策を転換させる重大事であるにもかかわらず、不協和音が出てくる背景には、リーダーの言葉が国民に響かない、いや、国民に向かって心に響く言葉をリーダーが発していないという現実がある。

岸田首相からは、防衛力強化の必要性を訴える言葉が国民に届いていない(代表撮影/ロイター/アフロ)

議論が進むに連れて防衛費増額への理解が低下

 正直、不協和音が出るのでは、といった兆しはあった。世論調査の数字である。

 今年9月、読売新聞社が公表した全国世論調査で、防衛力の強化に「賛成」が70%という驚異的ともいえる結果が示された。女性や子どもなどの弱者を標的にしたロシアのウクライナ侵略が続き、常任理事国が引き起こした戦争に対し、何の制裁も加えられない国連を尻目に、北朝鮮は勝手し放題に弾道ミサイル等を乱射している。そのうえ中国は8月、米下院議長の台湾訪問に反発、報復措置として台湾を取り囲むように「重要軍事演習」を実施し、日本の排他的経済水域(EEZ)に向けて5発の弾道ミサイルを撃ち込んできた。

 まさに前代未聞の事態だ。ロシアと北朝鮮、中国の非道に対し、多くの国民がはっきりと脅威と不安を感じたことは確かだろう。それが70%という数字だったのだが、翌10月、産経新聞社とFNN(フジ・ニュース・ネットワーク)による共同調査で、「防衛力強化」の裏付けとなる「防衛費増額」に「賛成」は62.8%、続くNHKの調査でも同じ質問への「賛成」は55%という数字にとどまった。

 議論が進むにつれて「賛成」の数字が低下する。さらに12月上旬の読売新聞社の調査では、「賛成」51%に対し「反対」42%と、とうとう賛否が拮抗するような数字にまで落ち込んでしまった。

 この間、「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定に向け、政府の有識者会議は11月22日、①日本への武力攻撃に対する反撃能力の保有、②防衛力そのものである防衛産業の育成、③産官学による装備品の研究開発――などを求める報告書を政府に提出した。しかも報告書は、財源について「歳出改革を前提にしてうえで、不足分については、幅広い税目による国民負担が必要」と指摘している。

 本来であれば、この報告書を受けて、岸田文雄首相はすぐさま国民の心に響く言葉を発する必要があった。これから国民に負担を求めていくためには、何よりも国民が理解し、共感することが大切だからだ。

 しかし、岸田首相が国民に向かって言葉を発したのは、臨時国会終了後の12月10日の記者会見であり、しかも増税については触れず、国民が防衛力強化の必要性を納得したうえで、負担を担っていこうという当事者意識を共有するには程遠い内容だった。


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