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Wedge OPINION

2022年11月25日

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小黒一正 (おぐろ・かずまさ)

法政大学経済学部 教授

1974年生まれ。専門は公共経済学。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月より現職。近著に『日本経済の再構築』(日本経済新聞出版社)など。

 昨年12月、岸田文雄首相が安保関係3文書の見直しを表明した。安保関係3文書とは、「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」を指し、このうち、「国家安全保障戦略」は国の外交・防衛政策の基本方針を定めるもので、2013年12月に初めて策定したものをいう。また、「防衛計画の大綱」は略称で「防衛大綱」と呼ばれ、国家安全保障戦略に沿って、概ね10年間で保有すべき防衛力の水準を定めたものをいう。最後の「中期防衛力整備計画」は略称で「中期防」と呼ばれ、5年間の防衛関係の経費や装備品の数量を定めたものをいう。

(AP/アフロ)

 今回の見直しにより、「防衛大綱」「中期防」は各々、「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」に改称される模様だが、この動きと連動して、大きな注目を集めているのが内閣官房に設置された「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の議論である。

 ロシアによるウクライナ侵攻が契機となり、自民党が防衛費を5年以内に国内総生産(GDP)比で2%以上に引き上げるように主張しており、その財源をどう確保するか、が大きな争点になっている。現在の防衛費はGDP比で概ね1%程度で推移しているため、仮に2%に引き上げるとなると、5兆円程度の追加財源が必要となる。

 この財源につき、有識者会議の資料(22年11月9日開催)では、「恒常的な歳出である防衛費については国債に頼らず恒久財源を確保すべき」であり、「防衛力強化の受益が広く国民全体に及ぶことを踏まえて、その費用も国民全体で広く負担するというのが基本的な考え方であり、国民の理解が必要」と指摘している。有識者会議の最終的な報告書(22年11月21日公表)では税目に関する明示はなかったが、11月9日の資料では、財源の例として、他の歳出削減による財源の捻出のほか、所得税や法人税が記載されている。

 まず、有事になれば、想像を絶する戦費を賄うケースもあるため、平時の防衛費は国債に依存せずに恒久財源を確保すべきという指摘は正論に思われる。例えば、太平洋戦争では、大量の国債を発行した。1937年度に国民所得比で約70%であった国債等の債務残高が、44年度には約270%に膨張した。僅か7年で、200%ポイントも増加している。

 有事の時こそ大規模な国債発行が可能となるよう、平時では財政基盤を強化し、財政的な余力を確保する必要がある。国債の国内消化にも一定の限界があり、国内での資金調達が難しくなると、日露戦争の時のように、海外から資金を調達するしかない。しかしながら、現在の日本のように、過剰な政府債務を抱える国が、有事の際に国債発行を行おうとすると、投資家から非常に高い利回りを要求される可能性がある。

 また、財政ファイナンスで戦費調達をする方法もあるが、その場合、円安やインフレが加速するだろう。インフレが加速すれば国民生活は疲弊するとともに、石油など戦争遂行に必要な物資を購入するためにも為替の安定が必要となる。有事の前や最中に財政が破綻すれば、安全保障上の脅威に対応することもできなくなってしまう。このため、平時では、防衛費の増強に関する議論のみでなく、過剰な政府債務を適切な水準まで引き下げることにより、有事に陥っても大規模な国債発行が可能となる余力を高める議論も重要となろう。

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