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Wedge OPINION

2022年11月25日

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小黒一正 (おぐろ・かずまさ)

法政大学経済学部 教授

1974年生まれ。専門は公共経済学。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月より現職。近著に『日本経済の再構築』(日本経済新聞出版社)など。

人口減少が加速し
定員割れが続く自衛隊

 この意味では、他の歳出削減や増税により、防衛力の拡充に必要な財源を確保することが重要となる。有識者会議の資料では、所得税や法人税が例示されているが、経済学的に防衛は純粋公共財であり、高齢世代を含む全世代が防衛力強化の便益を受ける。このことは有識者会議の資料でも触れられており、所得税や法人税といった現役世代が中心に負担する税目で、防衛力強化の財源を賄うという議論はおかしい。

 そもそも、本当に有事になったら、戦争に赴くのは若者などの現役世代の可能性が高いはずであり、現役世代の負担で賄えば、全ての負担を現役世代に押し付けることになる。このような議論は理不尽であり、防衛力強化にあたっては、政治がリーダーシップを発揮し、年金課税の強化を含め、高齢世代にも一定の負担増をお願いするのが筋だろう。

 また、資料では、「負担能力に配慮しながら」という記載もあり、この原則も当然だが、現実的に考えて、仮に所得税の見直しで対応する場合、高所得者に対する増税のみで5兆円もの財源を徴収するのは難しく、低所得者にも負担をお願いすることになると思われる。

 そもそも、防衛費が2倍になったからといって、防衛力が2倍になるとは限らない。「財源の規模ありき」の議論でなく、本当に必要な予算を見極め、全体戦略の中で議論を行う必要があろう。

 この関係で、現在の防衛力拡充に関する議論で見落とされているのが、急速な人口減少が進む中、自衛隊の定員をどう確保あるいは見直すか、という問題ではないか。

 22年度における国家公務員数は約59万人だが、その5割弱の約27万人が防衛省の職員である。防衛省職員の構成は、トップの防衛大臣を含む事務官等が約2万人、残りの約25万人が自衛官となる。あまり知られていないが、自衛隊の創設以来、自衛官の定員を充足したことは一度もない。

(出所)「令和4年版 防衛白書」から抜粋

 自衛官の階級は16階級制だが、大別すると、「将」「佐」「尉」「曹」「士」の5つがある。「令和4年版 防衛白書」によると、このうち、幹部(「将」「佐」や3尉以上の「尉」)の定員(約4.6万人)、准尉(「尉」で一番下の階級)の定員(約0.5万人)、「曹」の定員(約14万人)は、概ね93%~98%の充足率だが、会社組織で言うなら平社員に相当し、現場の中心となる「士」の定員(約5.4万人)は、充足率を約80%しか満たしていない。

 また、有事などの際に必要な自衛官の不足に対応するため、「予備自衛官」(定員約4.8万人)、「即応予備自衛官」(定員約0.8万人)の制度もあるが、定員充足率は概ね70%や50%しかない。

 もっとも、日本の自衛官の定員が適切とは限らない。この判断をするため、世界銀行の統計データ(2012年)を用いて、米国やロシア・中国などの諸外国と比較してみよう。

 各国の人口が異なるため、労働人口当たりの兵士数を指標として比較すると、まず、北朝鮮における労働人口当たりの兵士数は約9%、イスラエルやシンガポールは約5%、韓国は約2.5%、ロシアは約1.8%、イタリアは約1.4%、タイやフランス、ベトナム、ノルウェーは約1%で、米国は約0.94%となっている。また、フィンランドは約0.9%、エストニアは約0.8%、インドや英国、スイスは約0.5%、オランダは約0.48%、オーストラリアは約0.46%、ドイツは約0.45%で、日本は約0.4%となっている。中国は、日本以下の約0.38%だが、人口が日本の10倍なので、兵士数も概ね10倍となる。なお、カナダは約0.34%、スウェーデンは約0.3%で、世界平均は約1.3%である。


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