2022年12月8日(木)

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2022年10月25日

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土居丈朗 (どい・たけろう)

慶應義塾大学経済学部教授

専門は公共経済学、財政学、税制等。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手等を経て現職。『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社)で2007年度日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞を受賞。近著に『平成の経済政策はどう決められたか アベノミクスの源流を探る』(中央公論新社、2020年)がある。

予算の引き締め役である財務省。各省庁からの〝要求圧力〟に耐えられるか(JIJI PRESS PHOTO)

 2023年度予算の概算要求が、8月31日に締め切られた。財務省は9月5日、一般会計の要求額が110兆484億円となり、22年度に次ぐ過去2番目の規模であることを明らかにした。20年度から21年度にかけてコロナ禍での経済活動の自粛が最も強かった時期を乗り越え、財政支援の必要性が相対的に低下しているにもかかわらず、予算要求の規模はコロナ禍前よりも膨らんでいる。

 加えて、予算要求には、6月7日に閣議決定された「骨太方針2022(以下、「骨太」)」に示された内容(後に詳述)を踏まえ、金額を示さない「事項要求」も多く含まれた。事項要求とは、概算要求時に内容などが具体化していない事項について、金額を示さずに要求し、予算編成過程において、その内容が明らかになった段階で追加要求するものである。つまり、冒頭の110兆円余には、この事項要求分は含まれていない。そのため、今後の予算編成過程で歳出総額がさらに膨らむ可能性もある。 

 その上、「骨太」では、プライマリー・バランス(PB:基礎的財政収支)の黒字化目標ついて、昨年度方針まで「25年度」と示してきた達成年度の明記をもやめてしまった。こうしたことから、財政規律がさらに緩む兆候が見える。

 「骨太」には、防衛費増額のほか、脱炭素分野の成長に向けた民間投資の呼び水として、新たな国債「GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債(仮称)」を用いて10年で20兆円規模の財政支出を投じることも盛り込んだ。また、少子化対策や子育て支援でも、23年4月に子ども家庭庁が新設されることもにらんで、「将来的に予算の倍増を目指す」と踏み込んだ。そしてこれらは、自民党の参院選公約にも反映された。

 20年度以降、新型コロナウイルス対策のために赤字国債を大量増発したことから、政界では〝赤字国債慣れ〟が起きている。加えて、コロナ禍でありながら過去最高益をあげる企業が続出することに伴って法人税収が好調に推移していることや、消費税率が10%に引き上げられて堅調に税収が上がっていることを受けて、本来、各省庁の予算の引き締め役である財務省ですら、余裕を見せているかのようだ。

 コロナ後を見据えて、財政支出にも新陳代謝が必要なのに、今回の概算要求には、そうした取り組みへの真剣さが感じられない。「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」という言葉で、新時代に必要とされる財政支出を待望する声は多い。この言葉は、リーマン・ショック(世界金融危機)期の財政政策のあり方を示す言葉として多用され始めたが、その後の財政運営を振り返っても「ワイズ・スペンディング」が「ワイズ」だった試しはほとんどなかった。現に、「この財政支出があったから経済成長が促進された」と誰しもが認める支出はほぼないのである。

 時代の変化に伴い、コロナ後には不要とみられる歳出は大胆にスクラップしつつ、コロナ後の日本経済を自律的な成長軌道に乗せるのに資する歳出予算を新たにビルドするという、メリハリがもっと必要だ。今の勢いのままでは、コロナ禍で横行した「規模ありき」の予算編成に堕してしまう。

 リーマン・ショック以降言い古された「ワイズ・スペンディング」と同じ轍を踏まないようにするには、「アウトカム・オリエンテッド・スペンディング(成果志向の支出)」にしなければならない。予算を要求する省庁には、予算を獲得できればそれだけで省庁内で手柄となるという悪弊を断って、財政支出によるベネフィットを事前に精査し、所望の成果が上がったかについて支出後の効果検証を求めるべきだ。

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