新型コロナとウクライナ侵攻
物価上昇がもたらすリスクとは
わが国財政を取り巻く環境は、新型コロナの流行によって一変した。コロナ対策のために巨額の国債を増発したことで、ただでさえ未曽有の規模に達していた国債残高がさらに累増する羽目になったが、それだけではない。追い打ちをかけるように、コロナ禍での供給網の混乱やロシアのウクライナ侵攻に伴って、エネルギー資源や食料の価格高騰に直面している。欧米では、この物価上昇を鎮静化しようと、政策金利を大きく引き上げている。日本は、欧米より伸びが緩やかといえども、同じく物価上昇からは逃れられない。
長年のデフレと低金利時代を当たり前としてきたわが国の政府や国民は、今回の物価上昇を受け、金利上昇リスクを未然に防ぐことの重要性を実感しただろう。
加えて、わが国の財政状況は、〝自転車操業状態〟になっている。つまり、20年度補正予算で、コロナ対策のために赤字国債を大量増発せざるを得なくなったが、国債は日銀引き受けにすることはできないから、ひとまず民間金融機関に買ってもらわなければならなかった。しかし、民間金融機関も、コロナの収束時期も見極められないのに、政府に長期にわたりお金を貸すわけにはいかなかった。そこで、政府は満期が1~2年の国債を、コロナ対策のために増発する国債として発行したのだった。すると、20年度に1年満期で発行した国債は、早くも21年度に満期が来て返済を求められた。
しかし、すぐに完済するわけにはいかず、ほぼ全額を借り換えた。20年度に2年満期で発行して22年度に満期が来る国債も同様だ。借りては返してまた借りる。まるで〝自転車操業状態〟である。こうした状態では、金利が上がるとすぐに利払い費が増大して、他の政策的経費を圧迫することになる。わが国の財政は、もはや金利上昇リスクから容易に逃れられない状態になっている。今後の財政運営は、国の借金をできる限り増やさず、将来の金利上昇リスクを未然に防ぐための中長期的な視野が求められる。
一方で、現在の国家予算の仕組みは、冒頭で触れた概算要求も含めて年度単位の視点しか持てず、中長期的な政策ビジョンともいえる骨太方針なども、予算編成の方針を示すにとどまり、予算の裏付けが明確でない。
「骨太の方針」では具体的な金額が示されない
ため、同方針を大義名分とした各省庁の予算
要求が積み重なる
この年末までに改定することとなっている「中期防衛力整備計画」は、日本の防衛力整備について、5年間の経費の総額と主要装備の整備数量を明示する計画となっている。国家予算の中で5年間の方針と予算をセットで定めている極めて稀な計画だが、その経費の財源については何も定めがない。
したがって、将来の財政健全化に向けては、複数年度にわたる政策ビジョンと歳入歳出予算をセットで考える仕組みが必要だ。
中期的な財政計画を示し
将来へのコンセンサスを
では、どのようにその仕組みを構築すべきか。まず期間について、衆議院議員の任期が4年であるから、それを超える長さの計画はコミットできないか、途中で大幅改定が必要となる。そのため、3年程度の長さで年度をまたがって政策ビジョンと歳入歳出予算をセットでコミットする計画を策定するのが望ましい。いわゆる「複数年度予算」と呼ばれる仕組みで、既に導入している英国の政権運営のように、中期の国家予算計画と政策ビジョンを示すことで与党内を引き締め、政権に対する国民の求心力を高め、政権安定のツールにもできる。