2022年12月9日(金)

21世紀の安全保障論

2022年10月7日

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吉富望 (よしとみ・のぞむ)

日本大学危機管理学部 教授

1959年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。陸上幕僚監部、防衛省情報本部、内閣官房内閣情報調査室、防衛大学校教授などを経て2015年退官。拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了、博士後期課程(安全保障専攻)単位取得退学。主著に『防災をめぐる国際協力のあり方』(共著・ミネルヴァ書房)。

 今、ハイブリッド戦が戦争の様相を大きく変化させつつある。防衛省はハイブリッド戦について「軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法であり、相手方に軍事面にとどまらない複雑な対応を強いることになる。例えば、国籍を隠した不明部隊を用いた作戦、サイバー攻撃による通信・重要インフラの妨害、インターネットやメディアを通じた偽情報の流布などによる影響工作を複合的に用いた手法」との認識を公表している。

ハイブリッド戦が進む現代では、自衛隊だけで国を守ることは難しい(ロイター/アフロ)

 ロシアによるウクライナ侵攻を見ても、軍事面では歩兵や火砲や戦車が主役となる第二次世界大戦と同様の地上戦が行われる一方で、SNSでやり取りされた情報に基づいて民間人が民生品ドローンを使って敵を攻撃している。また、スペースX社が提供した通信衛星サービス「スターリンク」は、ウクライナ政府、軍、住民に通信環境を提供し、情報戦におけるウクライナの優位に大きく寄与している。

 非軍事面では、国際金融分野を含む経済制裁、エネルギーや食糧が交渉手段に使われている。インターネットやメディア、そして国際会議でも真偽不明の情報が自らへの支持拡大のために使われ、ロシアは、正当性が疑わしい住民投票によって地域の帰属変更を企てている。

 こうしたハイブリッド戦の様相を見ると、その担い手は軍のみならず情報機関、法執行機関、関係官庁、自治体、企業、民間人など多様である。つまり、軍官民の多くのアクターが総力を挙げて参画しなければ、ハイブリッド戦で敗れ去ることになるのだ。これを日本に当てはめれば、自衛隊と多様な官民のアクターによる協力が必要となる。

日本が持つ国家総力戦へのトラウマ

 軍官民の多くのアクターが総力を挙げて参画する戦いのイメージは、国家総力戦である。国家総力戦についての定まった定義は無いが、戦争に勝つという目的のために軍事だけでなく経済、社会、教育、科学、思想、文化などの国家を構成する全ての領域のベクトルを整合し、全てのリソースを動員することと考えられる。

 国家総力戦が初めて大々的に行われたのは、第一次世界大戦だと言われているが、日本にとって初めての国家総力戦は日露戦争であろう。日露戦争において日本は国力が遥かに大きいロシアと戦うために武器、弾薬、補給品、そして兵員を大量に必要とした。この戦争に勝つために日本の官民は軍に全面的に協力し、国民は増税にも耐え、100万人以上が戦地に赴いた。

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