こうした人々は国を守る行為に協力するあらゆる組織や個人を非難し、防衛産業には「死の商人」とのレッテルを貼る。こうした行為が自治体や企業などに与えるレピュテーションリスク(悪評や風評の拡大によって、組織の運営に支障が出る危険性)は無視できない。
課題を打破する2つの処方箋
この課題を解決するためには2つのアプローチが必要だ。それは第一に、官民の多様なアクターが防衛に参画し、自衛隊と協力することを後押しする制度を構築することである。
この際、国家総力戦に対する負のイメージが強い日本では、防衛への参画や自衛隊への協力に強制性を持たせることは難しい。したがって、この制度では、省庁、自治体、企業・団体、個人などが自発的に防衛に参画したり、自衛隊に協力したりすることを促す相応のインセンティブを設けることが重要になる。
第二に、防衛への参画や自衛隊への協力を前向きに捉える雰囲気を醸成することである。現在の日本にはこの雰囲気は極めて乏しいが、その方向性を変えてレピュテーションリスクを最小化しなければ、制度に設けたインセンティブは機能しない。
こうした雰囲気を醸成するためには多くの時間と地道な努力が必要だが、まずは、防衛への参画や自衛隊への協力の重要性について、積極的に国民に広報することが重要だ。また、防衛の重要性について義務教育の段階から教えていくことも検討すべきだろう。
日本周辺においては、中国、ロシア、北朝鮮といった専制的で攻撃的な国家が武力による現状変更を躊躇しない姿勢を明確にしている。そして、ロシア・ウクライナ戦争に見られるように、現代はハイブリッド戦の形を取るようになっている。
日本政府は、防衛力を抜本的に強化する方針を打ち出し、岸田文雄首相も「官民の研究開発や公共インフラの有事の際の活用などを含め、縦割りを打破し、政府全体の資源と能力を総合的かつ効率的に活用」するとの考えを示し、防衛における自衛隊と官民との協力を促している。
しかし、戦後一貫して自衛隊に丸投げしていた防衛をオールジャパンに転換することは容易ではない。首相自身が強力なメッセージを国民に向けて発するとともに、既に述べた新たな制度の構築と雰囲気の醸成にリーダーシップを発揮する必要があるだろう。
そして、かつての日本における強制性の強い国家総力戦とは異なり、自由で民主的な日本に相応しい自発性の強い新たな国家総力戦の創造を目指して欲しい。それこそが、防衛力を抜本的に強化する基盤となろう。
安全保障といえば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。日本人の歪んだ「安全保障観」を、今、見つめ直すべきだ。
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