2022年11月29日(火)

21世紀の安全保障論

2022年8月6日

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吉富望 (よしとみ・のぞむ)

日本大学危機管理学部 教授

1959年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。陸上幕僚監部、防衛省情報本部、内閣官房内閣情報調査室、防衛大学校教授などを経て2015年退官。拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了、博士後期課程(安全保障専攻)単位取得退学。主著に『防災をめぐる国際協力のあり方』(共著・ミネルヴァ書房)。

 ロシアによるウクライナ侵攻を契機として、日本では中国による台湾侵攻に連動する日本有事への懸念が高まり、防衛費の増額を巡る議論が活発となった。また、米国のペロシ下院議長が台湾を訪問したことに中国が激しく反発して台湾周辺で大規模な軍事演習を行い、日本の排他的経済水域(EEZ)内にも弾道ミサイルを撃ち込んだことで、多くの日本人は危機感を強めている。

中国軍が台湾周辺で演習を行うなど、軍事危機への懸念が高まっている(新華社/アフロ)

 今後、年末に予定されている国家安全保障戦略、防衛計画の大綱および中期防衛力整備計画の改訂に向けて、防衛費の増額を巡る議論は一段と熱を帯びるだろう。しかし、従来の延長線上の議論でいいのだろうか。

 防衛費は「防衛省・自衛隊の予算」と定義されてきた。しかし、防衛費を巡る議論の契機となったロシアによるウクライナ侵攻の状況を見れば、この定義は矮小化されていると言わざるを得ない。

 防衛費とは国の防衛に使用する予算であり、その重要な目的は有事において国民の生命を守ることである。このため、もし防衛費を防衛省・自衛隊の予算と定義するならば、防衛省・自衛隊が所掌する業務だけで国民の生命を守れることになる。それは非現実的だ。

 本稿では、防衛の目的に合致する予算を防衛費と定義することを提唱する。そこには当然、防衛省・自衛隊の予算も含まれるが、他省庁や自治体が所掌する防衛に不可欠の業務の予算も含まれる。以下、ロシアによるウクライナ侵攻の状況を踏まえて、こうした業務を三つ例示する。

地下避難施設の整備 

 国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う民間人の犠牲者は7月24日の時点で5237人であり、その大部分は砲撃、ロケット攻撃、ミサイル攻撃および空爆が原因と発表している。こうした激しい砲爆撃の下でウクライナ国民の生命を守るには地下避難施設が不可欠だ。幸いなことに、ウクライナには旧ソ連時代に作られた地下避難施設が多く、その数は首都キーウだけでも5000カ所との指摘もある。

 翻って日本を見てみよう。台湾侵攻に際して中国軍は、米軍や自衛隊による直接・間接の介入を妨害するために米軍や自衛隊の部隊や施設などに対してミサイル攻撃や空爆を行うだろう。加えて中国軍は、ロシア軍がウクライナで行ったように人口密集地や重要インフラへのミサイル攻撃や空爆を行う可能性がある。このため、国民の生命を守るためには、ウクライナと同様に日本にも地下避難施設は不可欠となる。

 しかし、日本における地下避難施設の現状は惨憺たるものだ。内閣官房が公表している国民保護法に基づく避難施設一覧(2021年4月1日現在)を見ると、例えば、中国軍の台湾侵攻に際してミサイル攻撃や空爆を受ける可能性のある沖縄県では、沖縄本島に6カ所の地下避難施設があるだけで、台湾に最も近い先島諸島には地下避難施設は皆無だ。

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