2022年12月3日(土)

WEDGE SPECIAL OPINION

2022年7月20日

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中国化薬がある呉は、戦前から軍事と共に発展した軍民「共存共栄の街」だ (WEDGE)

 JR呉線天応駅にある本社から高速船に乗ること約10分。瀬戸内海に浮かぶその島に目指す建物はあった。中国化薬(広島県呉市)江田島工場である。

 同工場では、日本で唯一、弾薬などに使われるトリニトロトルエン(TNT)火薬を製造している。また、大砲や戦車などの砲弾への爆薬の充塡を行っており、日本の安全保障、防衛産業にとって欠かせない存在といえる。

 だが、同社の神津善三朗代表取締役会長は「ここ30年間、防衛省向けの売上金額はほぼ変わっていない」と苦しい現状を吐露する。限られた防衛予算の中では、市場規模も小さくならざるを得ない。その間も原材料費は否応なく上がり、設備の維持・更新費用は経営に重くのしかかる。かつて700人いた社員も、今や470人となった。

 省人化にも限界がある。神津氏は「防衛装備品は、〝多品種少量生産〟。1つの生産ラインで、時期によってさまざまな規格の砲弾を製造するため、手作業に頼らざるを得ない部分がある。爆薬を扱う上での、保安上の細かな制限もあり、ラインを常に稼働させることはできない」と話す。実際、小誌記者が江田島工場を訪れた6月下旬には、TNT製造設備は停止していた──。

 日本の防衛産業が存亡の危機に瀕している。機関銃の生産から撤退した住友重機械工業、軽装甲機動車(LAV)の開発中止を決めたコマツ、艦艇・官公庁船事業を三菱重工業へ売却した三井E&Sホールディングス(旧三井造船)など撤退が相次ぐ。あえて撤退を表明しない企業もある。

 防衛装備庁が行ったアンケート調査によると、2017年の防衛装備品生産企業における総売り上げに占める防衛関連売り上げの割合は、平均でわずか3%であり、「利益率も低い」と、防衛関係者は口を揃える。

 また、防衛装備品は市場価格が存在しない場合が多い。そのため、一般的に、競争入札にしても、随意契約にしても、契約時に原価などから「予定価格」を算出し、契約履行後に実績額の監査を行い、支払代金を確定する契約方法がとられる(下図参照)。だが「企業が努力してコストダウンを行っても、その分、支払代金が下げられ、利益が取り上げられてしまう仕組みになっている」(防衛省OB)という。

防衛装備品では企業のコストダウンの努力が
報われない仕組みになっていた

(出所)財務省資料などを基にウェッジ作成 写真を拡大

 そこで防衛省では、コストダウン分の利益を企業と同省で分け合う「インセンティブ契約制度」を導入するなどして、企業の引き留め策に必死だ。

 だが、三菱重工や富士通など、国内に15社ある「プライム企業」(防衛省から直接受注する大手企業)のうちの、ある企業の幹部は「従来のインセンティブ契約制度で得られるメリットは限定的だった。一方、インセンティブ契約制度を適用するための申請手続きでコストの妥当性やコストが下がる理屈を証明するための膨大な資料を求められ、その対応が負担になり申請には消極的であった。最近になって制度の見直しなども行われており、企業努力も報われるようになりつつあると感じる」と打ち明ける。

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