2024年4月27日(土)

WEDGE SPECIAL OPINION

2022年7月20日

防衛産業を苦しめる
予算の「単年度主義」

 それだけではない。防衛産業が利益を上げられない最大の要因の一つは、何と言っても市場が国内(自衛隊)に限られていることにある。

 そのため、防衛装備品の輸出を事実上禁止してきた「武器輸出三原則」に代わり14年に策定された「防衛装備移転三原則」は注目を集めた。

 だがそれから8年。対象を「救難・輸送・警戒・監視および掃海」に限定してきたこともあり、肝心のまともな「輸出」は20年に三菱電機製の防空レーダーをフィリピンへ移転した1例のみという状況である。

 防衛分野のコンサルティング大手・米Avascent東京事務所代表の鍋田俊久氏は「フィリピンとは海上自衛隊の訓練機の譲渡を通した、制服組同士の深い信頼関係が成功の背景にある」と、その特異性を指摘しつつ「新しい三原則の下であっても、あくまで防衛省のニーズに基づいて採用された自国装備品の移転に限定される。相手国の実情やニーズに合わせたカスタマイズやローカライズ(現地化)を図ることも困難であり、輸出に向けたハードルはなお高いのではないか」と語る。

 「海外の防衛市場と比べると、防衛省は国内の防衛市場をうまくつくれていない。参入した企業が適切な競争環境にさらされ新陳代謝されながらも、長期にわたって企業側が満足する利潤をあげる市場が作れない場合、健全な防衛産業の構築はできなくなる」と指摘するのは、大規模防衛展示会「DSEI Japan」を共催するクライシスインテリジェンス(東京・豊島)代表取締役の浅利眞氏である。

 さらに浅利氏が問題点として指摘するのが「単年度主義」の予算制度だ。防衛に限った仕組みではないが、日本の防衛装備品の調達は単年度の予算に基づき、1年ごとに契約を結び直すのが主流である。しかし欧米や韓国など先進工業国では、たとえば「5年で戦車を200両」といったように、複数年の総量契約を行うのが当たり前だ。そうすればスケールメリットが生まれるだけでなく、事業の予見性も上がり投資も促進される。だが単年度主義の日本では、企業側が先を見通すのは困難だ。「これで生産ラインを維持できるはずがない。調達も毎年の予算に応じて場当たり的なものになる。複数年契約、総量契約をより広範に認めていくべきだ」と浅利氏は言う。

 防衛部門を企業のレピュテーションリスク(評判を害する危険)と捉える向きもある。小誌の取材に応じた防衛産業に携わる大手企業の幹部たちは「防衛というニュアンスの部署名をつけられない」「株主から、もっと儲かる事業に投資を、と言われ、会社上層部からは、『利益も少なく、会社のホームページにも堂々と載せられないので、もう撤退してはどうか』と言われることもある」など、苦しい立場に置かれている人が多い。


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