2022年9月27日(火)

21世紀の安全保障論

2022年4月1日

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吉富望 (よしとみ・のぞむ)

日本大学危機管理学部 教授

1959年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。陸上幕僚監部、防衛省情報本部、内閣官房内閣情報調査室、防衛大学校教授などを経て2015年退官。拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了、博士後期課程(安全保障専攻)単位取得退学。主著に『防災をめぐる国際協力のあり方』(共著・ミネルヴァ書房)。

 産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が3月19、20両日に実施した世論調査において、ロシアのウクライナ侵攻が中国による台湾や尖閣諸島での侵攻につながる可能性について尋ねたところ、「非常に懸念している」と「ある程度懸念している」の回答が計84.2%に上った。この数字は、日頃から中国の威圧的な行動を懸念していた多くの日本人が、ロシアの侵略を非難しない中国の姿を見て、中国が戦争を引き起こす気配を感じた証左であろう。

ウクライナ軍はロシアからの攻撃に粘り強く耐えているが、日本の自衛隊にそれはできるのか(ロイター/アフロ)

 ウクライナ戦争では、ウクライナ軍がロシア軍に対して粘り強く戦い、ロシアが目論む迅速な勝利を阻んだ。また、この粘り強い戦いは国際社会に大きな影響を与え、物心両面の支援・支持がウクライナに集まっている。

 一方、中国が台湾や尖閣諸島で引き起こす戦争は、中国軍による日本への大規模な攻撃に発展するであろう。その際に第一線で戦う自衛隊はウクライナ軍と同様に粘り強く戦えるであろうか。本稿では、ウクライナ戦争を3つの視点(➀開戦当初の奇襲攻撃対処、②装備品・物資の備蓄・輸送、③情報戦)から眺め、そこから見える自衛隊の課題を考察する。

開戦当初の奇襲攻撃対処 

 多くの戦争は奇襲攻撃から始まる。太平洋戦争、朝鮮戦争、湾岸戦争などがその典型だ。侵攻する側は周到に準備を進め、侵攻の時期、場所、要領を相手に特定されないようにする。

 ウクライナ戦争でも、2021年の春以降にロシア軍はウクライナ国境付近への集結および大規模な演習を行っており、22年2月になると侵攻の可能性が高まったとの指摘が多くなされた。しかし、侵攻の時期、場所、要領の特定はできないまま2月24日にロシア軍の奇襲攻撃を迎えた。

 中国が戦争を引き起こす場合も、早期から兵力を集結させ、大規模な演習を頻繁に行うであろう。このため、日本側が侵攻の時期、場所、要領を特定することは難しい。

 これは、自衛隊が防衛態勢を強化するために部隊や艦艇などを分散・展開させるタイミングの判断が難しいことを意味する。中国軍は当然ながら、自衛隊が分散・展開する前に奇襲攻撃を行うであろう。

 ウクライナ戦争でのロシア軍の奇襲攻撃は地上部隊の侵攻が中心であり、ミサイル攻撃や航空攻撃はさほど大規模ではなかった。このため、奇襲攻撃ではウクライナ軍に大きな損害を与えることができず、航空優勢の確保も不完全となった。これは、その後のウクライナ軍の粘り強い戦いを可能にする要因となった。

 他方、中国軍による日本への奇襲攻撃は航空優勢および海上優勢の確保を狙った大規模なミサイル攻撃が中心となり、サイバー・宇宙・電磁電子分野での攻撃、潜入した特殊部隊などが併用されよう。こうした奇襲攻撃が成功すれば、地上の対艦・対空ミサイル部隊、航空機、燃料・弾薬、滑走路、港湾、レーダーサイト、情報・指揮・通信施設、海上の大型艦艇などは損害を被り、自衛隊の戦力は大きく低下する。

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