2022年11月27日(日)

21世紀の安全保障論

2022年1月18日

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村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

 「台湾危機はどれほど切迫しているのか」。長らく台湾の安全保障をめぐる問題は、日米の外交・防衛当局者や一部の専門家など、ごく一部の限られた人々の関心事項に過ぎなかった。しかし、今や台湾問題は、メディアで最も頻繁に取り上げられるようになった国際政治上の課題の一つと言っても過言ではない。

台湾海軍が22年に入りすでに軍事演習をしている(ロイター/アフロ)

米国内でも別れる「切迫した脅威」への見解

 台湾の安全保障への関心が急速に高まる直接のきっかけとなったのは、2021年3月9日にフィリップ・デイビッドソンインド太平洋軍司令官(当時)が行った「台湾への脅威は、今後6年以内(筆者注:2027年)に明らかとなる」との議会証言であった。また、これに続く3月23日の議会公聴会では、デイビッドソンの後任となるジョン・アクイリノ現インド太平洋軍司令官が「(中国による台湾侵攻の脅威は)多くの人が考えているよりも切迫している」と証言し、関心の高まりに拍車をかけた。

 事実として、台湾に対する中国の軍事的圧力は日に日に強まっている。例えば、中国軍機による台湾の防空識別圏への侵入は増加傾向にあり、21年10月4日には、12機のH-6爆撃機や36機のJ-16戦闘機を含む計56機の侵入が確認された(20年9月に台湾国防部が中国軍機の動向を公表し始めて以来、最多)。その後、台湾の邱国正国防部長は、10月6日に行われた立法院の国防予算審議の中で、「中国は2025年には全面的に台湾に侵攻できる能力を持つ」とさえ語っている。

 しかしその一方で、日を追うごとに高まる台湾問題への危機感をトーンダウンさせるような動きも見られるようになっている。米軍トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、6月17日の議会公聴会において、「中国にとって台湾は、依然として核心的利益だ。しかし、現時点で台湾を軍事的に統一しようという意図や動機もほとんどなく、(中略)近い将来にそれが起きる可能性は低いと思う」と証言している(11月3日、ミリー氏は「(近い将来とは)向こう半年から1、2年」という意味だとも述べている)。

 同様に、日米の中国専門家の中にも「米軍と衝突する可能性の高い台湾本島への本格的な武力侵攻は、政治的にも軍事的にもハードルが高く、習近平にとってリスクが大きすぎる」「台湾情勢は世間で騒がれているほど切迫しているわけではない」という声は少なくない。

必要なのは危機への予想ではなく、危機を防ぐ具体策

 台湾危機は差し迫っているのか。こうした観点から、世間やメディアの関心が高まるのは自然なことではある。しかし、国際情勢の変化は、地震や台風などの自然災害のように、個人や国家の意思が及ばないところで、ある日突然起きるものではない。それは国家間の意思や能力の相互作用の中で生じるものであるから、各国が「今、何をするか」によって、将来起こりうる事態の性質やそのタイミングは自ずと変化する。

 台湾有事が起きれば、それがどのような形であったとしても、日本も当事者となることは確実であり、決して傍観者ではいられない。こうした点に鑑みれば、われわれにとって重要なのは、台湾危機や米中戦争が起きるか起きないかをあたかも占いのように予想することではなく、それらの危機をできる限り遠ざけるために、「今、何をしなければならないのか」という視点に立って直面する課題を捉え直すことである。

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