WEDGE REPORT

2020年7月20日

»著者プロフィール
著者
閉じる

村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

本記事の要約版はWedge8月号に掲載されています。

  イージス・アショアの配備計画停止を受け、日本政府は夏から秋にかけて、安全保障戦略の見直しに着手する姿勢を明らかにした。同時に安倍総理は、自民党の国防部会等からいわゆる「敵基地攻撃能力」の保有に関する議論が出ていることを受け、「そういうものも受け止めていかなければいけない」と述べた。

北朝鮮や中国の保有するミサイルのほとんどは移動式だ (KNS/KCNA/AFP/AFLO)

 日本の攻撃能力保有に関する議論は、これまでにも国会やメディアで度々取り上げられてきたが、それらの多くは憲法等の法律論や制度論、あるいは戦闘機やミサイルなど特定の兵器の性能に注目した議論に終始しがちであり、北朝鮮・中国の戦略や、米国との同盟関係などを考慮した、総合的な抑止・防衛戦略を踏まえた議論は不足していたように思われる。その結果、日本の安全保障環境を改善するために、どのような攻撃能力を持つことが適当なのか(または持つべきではないのか)ついては、一般に十分な整理・理解・議論がなされてきたとは言い難い。

 そこで本稿では、そもそも日本に攻撃能力は必要なのか、必要であるとすれば、保有にあたりどのような論点が焦点となるのかを整理する。そして、今後自衛隊が敵地を攻撃できる態勢を整えていくとした場合に、防衛予算・人員等のリソースの制約、配備までに要する期間、米国との関係等を踏まえて、どのような態勢が最も好ましいのかを考えてみたい。

攻撃能力に関するこれまでの政府見解

 まず確認しておきたいのは、日本国憲法は自衛隊が攻撃能力を保有し、敵地に対する攻撃作戦を実施すること自体を禁じてはいないという点だ。1956年2月29日に行われた衆議院内閣委員会において、当時の船田中(ふなだなか)防衛庁長官は鳩山一郎首相の答弁を代読する形で以下のように述べている。

 「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾(筆者注:ミサイル)等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、 他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います」

 これと同様の答弁は、 その後も複数回行われている。しかし日本政府は、自衛隊が攻撃作戦を行うことを否定していないにもかかわらず、政策判断として遠方の敵を攻撃しうる兵器を整備してこなかった。その理由については、①憲法9条とその解釈に基づくターゲティング・ドクトリン(何をどのように攻撃するかという指針)の制約と、 ②日米同盟の役割分担という2つの文脈から説明できる。

関連記事

新着記事

»もっと見る