WEDGE REPORT

2020年7月20日

»著者プロフィール
著者
閉じる

村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

(1)懲罰的抑止力としての攻撃能力

 懲罰的抑止とは、「やられたら、やり返す」という意図と能力を相手に認識させることで、攻撃を思いとどまらせることを言う。だが結論から言って、通常戦力のみで懲罰的抑止力を担保することは不可能である。

 懲罰的抑止のためには、前述のカウンターバリュー攻撃が不可欠となる。カウンターバリュー攻撃に用いられるのは、長射程の弾道ミサイルや戦略爆撃機に搭載される核兵器だが、我が国の核保有は、一般的な攻撃能力の保有を検討することとは比較にならないほどの国際的・国内的な抵抗があるだろう。また、日米同盟や拡大核抑止=「核の傘」の存在に鑑みると、日本が人口密集地への大規模攻撃のために核兵器を保有し、それを実行することを「他に適当な手段がない場合」と説明することは法解釈上困難である。

 では、通常兵器を用いて懲罰的報復を行うというオプションはどうだろうか。懲罰的抑止の概念が生まれた1950年代と異なり、現在では非常に命中精度の高い精密誘導兵器が存在する。しかし精密誘導兵器をどのように使えば、相手にとって「耐え難い損害」となりうるのだろうか。仮に、北朝鮮の政治指導部をピンポイントで攻撃できるのなら抑止効果もあるだろうが、2020年3月から4月にかけて世間が「金正恩重体説」に踊らされたように、特定個人を必要なタイミングで捕捉し、短時間で攻撃を仕掛けることを抑止力の担保とするのは現実的ではない。したがって、兵器の精度がいくら向上しても、通常兵器によって破壊できる目標は限られており、確実性を追求する場合には核武装の議論に立ち返らざるを得ないことになる。

 また、平壌や北京の重要施設を通常兵器で攻撃できたとしても、彼らが核兵器を持っていれば、核兵器によって再報復される可能性が出てくる。「懲罰能力を米国に依存しない」ということは、その時点ですでに日本に対する米国の防衛コミットメントが弱まっているか、あるいは米国の政治指導者が報復的武力行使に賛成していない状況が想定される。つまり、米国の後ろ盾がない状況で、核保有国に対して通常兵器による報復を仕掛けることは、敵から再報復の脅しを受けた場合に、エスカレーションを抑制する術がないということであり、抑止戦略上極めてリスクが高いと言わざるを得ない。そのような信憑性のない抑止力には、そもそも抑止効果がないということになる。これは法制度や政治的制約を度外視して、少量の核兵器を保有した場合でも同じことが言えよう。

(2)拒否的抑止力としての攻撃能力 ー 地上移動目標に対するカウンターフォース

 拒否的抑止とは、相手の攻撃を無力化・低減する能力を持つことで我が方の損害を限定し、攻撃を仕掛けてきたとしても思い通りの効果を発揮できなくさせようというものだ。一般的に、拒否的抑止力の代表例としてはミサイル防衛が挙げられることが多いが、相手がミサイルを発射する前にそれらを撃破して、飛来するミサイルを減らし、損害を限定する方法も拒否的抑止に含まれる。このように相手のミサイルや爆撃機、航空基地や軍港などの軍事施設を目標にするターゲティング・ドクトリンを「カウンターフォース(対兵力)攻撃」と呼ぶ。

関連記事

新着記事

»もっと見る