WEDGE REPORT

2020年7月20日

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村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

 ここで問題となるのが、しばしば用いられる「敵基地攻撃能力」というフレーズが持つニュアンスである。一般的に「敵基地」というと、多くの人は北朝鮮のテポドン発射の際に度々ニュースで報じられた、巨大なミサイルが備え付けられた固定式発射施設のようなものを想像するだろう。しかし、このような施設は実際の有事では使用されない。北朝鮮や中国が保有しているミサイルのほとんどは、様々なサイズのトラックやオフロード・トレーラーなどの車両に搭載された移動式ミサイルだからである。より正確に言えば、軍事情報分析を扱う人々はこれらの移動式ミサイルが駐屯しているエリアを広義の「ミサイル基地」と呼んではいる。しかし実際の運用では、攻撃を仕掛ける前にそれらの移動式ミサイルは、通信傍受を避けるために司令部との通信を停止した上で、地下トンネルや山陰に隠れながら広範囲に分散展開する。そして、攻撃時にはトンネルの出入口や森林の隙間から僅かな時間顔を出し、ミサイルを一斉発射した後、再び場所を移動するという運用が行われる。

 したがって、移動式ミサイルを破壊するためのカウンターフォース作戦を実施するには、様々な前提条件を考慮する必要がある。

巡航ミサイルは移動目標攻撃に不向き

 まず、目標を発見してから攻撃命令を下し、実際にミサイルや爆弾が移動式ミサイルに命中し、破壊を確認するという一連の流れ(ターゲティング・サイクル)を極めて短時間で行う必要がある。例えば、トマホークに代表される巡航ミサイルの飛翔速度は、マッハ0.7〜0.9程度の亜音速であり一般的なジェット旅客機とさほど変わらない。具体的にいえば、800km離れた地点から発射したトマホークが目標に到達するまでにおよそ1時間かかる。前述のように、日本を射程に入れる北朝鮮や中国の中距離弾道ミサイルは、展開から発射、その後の陣地転換までに、それぞれ15〜20分程度しかかからないため、その間に移動したり、トンネルなどに隠れることができる(*これは液体燃料ミサイルであっても同様である。一般的に、液体燃料式の弾道ミサイルは、安全性の観点からミサイルを起立させたのちに燃料の注入を行うため、固体燃料式よりも即応性に劣り、その間の攻撃に脆弱であるとされてきたが、北朝鮮は近年トンネル内や頑丈に防護されたシェルターのような場所で移動式ランチャーにミサイルを水平に寝かせたまま燃料を注入し、屋外に出したあとにそれを起立させることで、発射までの時間を短縮する訓練を行なっていると見られる)。

 つまり、巡航ミサイルは、基本的に移動目標を攻撃するのには適していないのである。時折、日本が2018年の防衛大綱・中期防衛力整備計画の中でJSMやJASSMなどのスタンドオフミサイル(長射程の巡航ミサイル)の導入を決定したことを受けて、「敵基地攻撃能力を持ったことと同じ」という声が聞かれるが、これが移動目標を想定したものであれば、その認識は誤りである。

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