2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2020年7月20日

 言うまでもなく、防空網制圧作戦は、敵の迎撃ミサイルや戦闘機が向かってくるかもしれない状況下で行われるわけであるから、味方の攻撃部隊を守るためには護衛の戦闘機だけでなく、電子防護を行うEA-18Gのような電子戦機が随伴する必要がある。2013年7月に、米国が豪州に対してFMSで12機のEA-18Gを売却したときの価格は、総額13億4670万ドル(1333億円)であった。

 精密攻撃能力については、航空自衛隊が導入を始めたF-35やSDBなどを活用できるかもしれない。しかし、F-35の戦闘行動半径が(兵装や機種にもよるが)700マイル(=1126km)前後であることを踏まえると、中国・北朝鮮の領空に侵入し、移動式ランチャーを発見するための空中哨戒を断続的に行うには、空中給油機が不足する。また中国対処を念頭に置く場合には、中国空軍の第4・第5世代機が迎撃に上がってくるであろう状況で、F-35の活動時間を引き伸ばすために、空中給油機をどこまで近づけられるかが問題となるだろう。これはF-35が将来の航空優勢確保にも用いられることを踏まえると、防空作戦の需要と対地攻撃作戦の需要とが競合すると予想されるため、限られた航空戦力をどのように分散させるかも課題となる。

 これらの要素を踏まえると、日本が地上の移動式ミサイルを攻撃するための能力を保有するには、イージス・アショアとは比較にならないほどの莫大な取得・運用コストが追加で必要となる。加えて、戦闘機や支援装備・人員等の資源配分の問題を解決しなければならない。政治的・経済的ハードルを差し引いたとしても、これらをイージス・アショアの稼働を見込んでいた5年以内(2025年まで)に構築することは不可能だろう。

(3)拒否的抑止としての攻撃能力ー地上固定目標に対するカウンターフォース

 残るオプションは、日米の総合的な攻撃・防御能力の一部として、地上の固定目標に対する攻撃能力を持つことである。

 南西諸島防衛や台湾防衛のようなシナリオでは、中国はサイバー、宇宙、電磁波領域などでの妨害と並行して、ミサイル攻撃により日米の戦力投射能力と支援能力を低下させようとするだろう。具体的には、弾道ミサイルにより沖縄や九州、グアムの滑走路、横須賀・呉など主要港湾施設などを破壊し、精度の高い巡航ミサイルの飽和攻撃によって予め位置のわかっているレーダーや、基地に駐機中の戦闘機、停泊中の艦艇を破壊する。その後、日米の統合防空ミサイル防衛能力が損耗したところで、中国は航空戦力を投入して第一列島線周辺の海上・航空優勢を獲得し、米国の介入を阻止すると言うシナリオである。

 この場合、戦闘機を様々な場所に分散するなどの対抗手段をとったとしても、日米の航空戦力の数十%は第一波の攻撃によって地上で無力化されてしまうことを覚悟しなければならない。したがって日本は、既存のISRを活用しうる、残存性の高い別の攻撃プラットフォームによる長距離攻撃オプションを検討する必要がある。そこで考えられるのが、空中発射型のスタンドオフミサイルに加えて、海洋発射型、そして移動式の地上発射型ミサイルにより、敵の固定目標を攻撃するというオプションである。


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