2024年7月16日(火)

WEDGE REPORT

2020年7月20日

 仮に、第一波の攻撃によって日米の航空戦力・防空能力が損なわれたとしても、後続する中国の戦闘機や爆撃機の作戦基盤にも損害を与え、その活動を阻止することができれば、中国の「セオリー・オブ・ビクトリー」(政治目標を達成するための戦争の大まかな戦い方=勝ちパターン)を破綻させ、結果的に最初に攻撃を仕掛けようとするのを思いとどまらせることができる。

 具体的な攻撃目標としては、滑走路、航空機や爆撃機の格納庫や掩体壕、弾薬庫、燃料貯蔵庫、レーダー施設、通信施設、指揮統制システムなどが考えられる。北朝鮮が150基以上の移動式ミサイルを持っていることを仮定すると、米韓との全面的な連携が取れていれば、事前にその一部を破壊することは可能かもしれないが、中国の500基以上の移動式ミサイルを先制的に破壊するのは不可能だ。しかし、固定目標の位置情報は、情報収集衛星やグローバル・ホークで事前に取得できるため、新たなISRアセットを取得する必要はない。

 攻撃プラットフォームとしては、射程1600km以上の巡航ミサイル、準中距離弾道ミサイル(MRBM)が考えられる。

 巡航ミサイルの利点は、配備までの期間が短いこと、命中精度が高いこと、相対的にコストが低いこと、空中発射・海洋発射型ミサイルと合わせて、多方面からの飽和攻撃が調整可能な点である。現在米国で改修が進んでいる地上発射型トマホークの1発あたりのコストは、140万〜 200万ドル(約1億5000万円〜2億円)であるから、イージスBMDに用いられる最新型の迎撃ミサイル・SM-3BlockⅡAの価格がおよそ4000万ドル(約40億円)であることを踏まえると、SM-3BlockⅡA・1発分のコストでトマホークを20〜28発取得できることになる。

 しかし、巡航ミサイルはペイロードが小さいため、滑走路やコンクリートなどで頑丈に防護された目標を効果的に破壊することはできない。また飛翔速度の遅さから、同時に多数発射しなければ迎撃される恐れがあるため、一定程度の数を同時展開する必要がある。地上発射型トマホークのランチャーの仕様については公表されていないが、仮に米軍の重高機動戦術トラックのような大型車両をベースとした移動式ランチャー1両に4発のトマホークを搭載できると仮定した場合、ランチャー4両で1個中隊、ランチャー8両からなる2個中隊でトマホーク32発分の同時発射能力を持つことになり、概ね米海軍のイージス艦1隻分の攻撃能力を代替しうる。

 準中距離弾道ミサイルの場合、1発あたりの価格はトマホークの6〜10倍(1600万ドル=約17億2000万円)になると見込まれるが、飛翔速度の速さ、防空システムに対する突破力、重いペイロードを用いた攻撃力を活かして、たとえ少数であっても、滑走路などのハードターゲットを効率的に破壊することができる。潜在的なターゲットとなりうる中国の軍事施設・重要拠点5万箇所のうち、その約70%は沿岸から400km地点以内に集中していると見積もられること、またミサイルを長射程化=大型化すると1発あたりのコストが高くなり、連射力・機動力が落ちることを踏まえると、日本が保有すべき弾道ミサイルの射程は2000km程度でも十分効果的である。射程2000km級のMRBMであれば、ランチャーを沖縄でなく九州にも配備した場合でも、中国沿岸から約1000km以内に位置する航空基地を13分以内に打撃することが可能となる。


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