日本の攻撃能力は、米国からの自立を目指すためではなく、日米同盟の抑止力・事態対処能力を相乗的に高めるものでなければならない。最も重要な点は、日米で北朝鮮や中国に対する「セオリー・オブ・ビクトリー」のあり方を規定し、それを共有することだ。北朝鮮対処と中国対処では、優先的に投資すべき分野は必ずしも同じではない。北朝鮮シナリオで優先されるのは第一義的には弾道ミサイル防衛能力だが、中国シナリオでは、弾道ミサイル防衛能力以外にも、巡航ミサイル防衛能力、巡航ミサイルの発射プラットフォームになりうる戦闘機や爆撃機に対処する防勢的対航空作戦能力、空母や水上艦艇への対艦攻撃能力、対潜水艦戦能力、宇宙・サイバー・電磁波などの新領域での対抗手段など非常に多くの要素がある。
予算・人員など極めて限られた防衛リソースの中で、これら全てを満遍なく手当てすることは不可能だ。コロナショックから回復するための財政出動が行われるであろうことを踏まえると、今後日米共に防衛予算に対する制約はますます厳しくなっていくだろう。そうした中で、日米がそれぞれの見積もりに基づいて、別々の防衛力整備をする贅沢はもはや許されなくなってきている。ミサイル防衛は重要であるが、ミサイル防衛にのみ際限なく投資することはできない。一方、「セオリー・オブ・ビクトリー」を明確にしないまま、中途半端な攻撃能力の保有に走れば、日米のミサイル防衛態勢に空白ができ、直近の北朝鮮対処にも、将来の中国対処にも大して役に立たない歪んだ防衛力ができ上がり、かえって総合的な防衛力・抑止力の実効性を損ねてしまいかねない。こうした状況に陥るのを避けるためには、今こそ日米同盟の役割・任務・能力(RMC)の再定義を行い、「誰が、何をやるべきか」「何が、どれだけあれば十分か」という議論を経て、真に共同の防衛力を構築していく必要がある。
〈参考資料〉
・日本の攻撃能力をめぐる議論の経緯と、移動目標攻撃の難しさについては、『防衛研究所紀要 第8巻第1号』(2005年10月)の高橋杉雄「専守防衛下の敵地攻撃能力をめぐってーー弾道ミサイル脅威への1つの対応ーー」を参照。
・攻撃能力の追求にあたって、自衛隊に必要となる取得・運用コストを試算したものとしては、武田康裕『日米同盟のコスト―自主防衛と自律の追求』(亜紀書房、2019年)がある。
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