2024年4月27日(土)

WEDGE REPORT

2020年7月20日

 巡航ミサイルと弾道ミサイルのどちらを優先するかは、想定するシナリオ(北朝鮮/中国)やターゲット・セット(目標の数、艦艇も攻撃対象にするかどうか等)によって異なるが、たとえ価格が10倍であっても、決心から弾着までの速度が速く、ハードターゲットへの攻撃が可能な弾道ミサイルを少数保有する方が、ミッションベースでの費用対効果は高くなる可能性がある。防衛装備庁が開発している島嶼防衛用高速滑空弾は、弾道ミサイルと同様の戦術的効果を発揮できるだろうが、見込まれる射程がBlockⅠでは400km程度と短い上、配備予定時期が2026年と時間がかかる。この点、米国で進行中の極超音速滑空ミサイル・プログラムや中距離弾道ミサイル・プログラムとロケットモーターの共同開発・共有などを検討するなどして、射程延伸と配備期間の短縮を図ることは検討されるべきである。

 以上を踏まえると、日本の攻撃能力に関する3つのオプションのうち、地上発射型ミサイルを含む、海洋・空中発射型スタンドオフミサイルを用いて、固定目標を攻撃する能力の獲得が、最も費用対効果に優れるのではないだろうか。この能力は、日本が単独で北朝鮮や中国の移動式ミサイルを抑止・撃破するものではなく、イージス・アショアが担うはずであったミサイル防衛の代わりにもならない。しかしながら、日米(韓)が最適化された役割分担を行い、日本が固定目標への攻撃の一部を担うことができれば、その分米軍の航空戦力はより捕捉が難しい移動目標への攻撃に集中することができるようになる。湾岸戦争の事例では、たとえ移動式ミサイルの直接的な破壊に繋がらなくとも、攻撃のための哨戒を反復的に繰り返すことで、相手は発見を恐れてミサイルの展開エリアを狭めたり、露出する時間を減らすことなどを余儀なくされるため、結果的に発射されるミサイルの数を減らすことができたというデータがある。飛んでくるミサイルの数が減れば、それは既存のミサイル防衛を効率的に運用する上でプラスに働く。したがって、日本が目指すべき攻撃能力は、ミサイル防衛を支える日米の同盟協力の一分野として捉えるべきだろう。

6月末に南シナ海で行われた日米合同訓練 (DVIDS)

 また自衛隊が独自の長距離ISRと攻撃能力を持つことになれば、米軍の作戦計画やターゲティング計画の立案に参画する梃子を持つことにもなる。例えば、北朝鮮有事において米韓連合司令部は、韓国防衛(火砲や短距離弾道ミサイル)と米本土防衛(ICBM)を優先し、日本を狙うノドンや北極星などのMRBMが後回しにされる可能性がある。米韓連合司令部と日本との関係を差し引いても、実際の能力を持っていなければ、日本はこうしたターゲティング調整のプロセスに関わること自体が難しいのが現実だ。この問題を克服することは、日米の抑止力の実効性・信頼性を考える上で、どのような兵器を配備するかといった問題よりもはるかに重要である。


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