2024年4月20日(土)

安保激変

2019年1月18日

12月18日に閣議決定された防衛大綱。メディアの注目を集めたのはいわゆるいずも型護衛艦の「空母化」問題だったが、その議論は防衛戦略の有効性を検証する上では、本質的ではない。防衛大綱とはどのような性格の文書なのか、防衛戦略とはどのように組み立てられるものなのか、評価をしてみたい。(前編はこちら

写真:AP/アフロ

30大綱のキャッチフレーズ
「多次元統合防衛力」とは

 30大綱のキャッチフレーズである「多次元統合防衛力」とは、陸・海・空の従来領域のみならず、宇宙・サイバー・電磁波といった新領域とが組み合わさった戦闘様相に対応するため、「個別の領域における能力の質及び量を強化しつつ、全ての領域における能力を有機的に融合し、その相乗効果により全体としての能力を増幅させる領域横断(クロス・ドメイン)作戦により、個別の領域における能力が劣勢である場合にもこれを克服し」「平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする、真に実効的な防衛力」と説明されている。

 このような概念は、今後自衛隊が目指していく方向性として妥当であり評価できるものだが、皮肉な言い方をすれば、現在の防衛省・自衛隊の体制は、向き合うべき潜在的脅威に対して既に遅れをとっていることの裏返しとも言えるだろう。これまで十分な投資が行われてこなかった宇宙・サイバー・電磁波領域の重要性を認識し、資源配分をしっかりと行なっていくという以外においては、多次元統合防衛力は、基本的に25大綱で掲げられた「統合機動防衛力」の延長線上にある。統合機動防衛力は、「各種活動を下支えする防衛力の「質」及び「量」を必要かつ十分に確保し、抑止力及び対処力を高めていく」ことを目指したもので、その方向性自体は既に適切であった。

 しかしそれでも、30大綱では「近年では、平素からのプレゼンス維持、情報収集・警戒監視等の活動をより広範かつ高頻度に実施しなければならず、このため、人員、装備等に慢性的な負荷がかかり、部隊の練度や活動量を維持できなくなるおそれが生じている」との危機感が述べられており、25大綱で目指した戦力構成から、(宇宙・サイバー・電磁波を含めた)更なるアップデートを行う必要性が訴えられている。

防衛力整備の基本的な考え方

 では、今後達成すべき必要かつ十分な防衛力の質と量とは、どのような方法論で導かれているのだろうか。それは「Ⅲ-1(3)防衛力が果たすべき役割」という小項目と、それに続く「Ⅳ 防衛力強化にあたっての優先事項」「Ⅴ 自衛隊の体制等」という各章の連関に注目することで徐々に読み解くことができる。

 そもそも、防衛力整備を行うにあたっては、(1)どのような完成像を描くのか、(2)完成像に到達するまでにどのぐらいの時間とコストがかかるか/かけられるか(時間軸と予算の整合性)、(3)その完成像を独自の水準で決めるのか、それとも他国との相対的な所要で決めるのか(脅威分析や彼我の能力見積もり)といった要素が重要となる。

 (1)の完成像は、時の内閣や政治が責任を持ち、より上位の戦略文書で示されるビジョンに沿って決められることが望ましい。この点において、今回国家安全保障戦略を同時に見直すべきであったことは先に指摘した通りである。

 (2)予算上の整合性や(3)彼我の能力見積もりについては、中長期的な防衛力整備の持続可能性と関係するので、それらはまとめて考える必要がある。

 元々冷戦期の日本は、防衛力整備の基本理念として、脅威対抗論に立たずに独自の水準を設定し、その目標を達成するための防衛力の積み上げていく、いわゆる「基盤的防衛力構想」を採用していた。基盤的防衛力構想は、自衛隊の運用よりも存在を重視し、自衛隊を機能的・地理的に欠落のないよう全国に渡って均等に張り付けることで、日本自らが「力の空白」にならないことを目的としていた。しかし、冷戦終結によってそれまで想定されていたような本格的侵攻の蓋然性が薄れ、テロや国際平和協力活動といった新たな脅威・事態への対処(16大綱)や、南西方面での機動的な運用の重要性(22大綱・25大綱)が高まると、徐々に基盤的防衛力構想からの脱却が図られるようになった。

 その結果、現在の防衛力整備は、独自の水準に基づく積み上げではなく、将来対処すべきと思われる事態及び事態の様相(シナリオ)を複数見積もった上で、現在の自衛隊に不足している統合能力・機能領域を科学的に導き出し、現在と将来とのギャップを埋めていくという発想の上に成り立っている。これは「基盤的防衛力」の対抗概念である「所要防衛力」に近い性格を持つものとされる。


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