安保激変

2019年1月18日

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村野 将 (むらの・まさし)

ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て現職。日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program,米国務省International Visitor LeadershipProgram(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

いずも型護衛艦の改修とF-35Bの運用構想、
想定される「4つのシナリオ」

 最後のポイントとして挙げる、海上優勢・航空優勢確保のための取り組みには、おそらく30大綱の中で最も多くの論点が含まれている。まず、日本の周辺海空域の広域常続監視を行うための航空警戒管制部隊の再編およびグローバルホーク部隊を新編するといった努力に疑問はないだろう。同じく、無人水中航走体(UUV)の活用を明記していることは、人的資源が限られる将来でも、日本がカバーすべき広大な海域でのISRを効率的かつ持続的に実施し、水中ドメインでの優位を維持するためにも率先して取り組むことが望まれていた。

 論点となるのは、いずも型護衛艦の「空母化/多用途化」を進める理由づけとしての以下の説明である。

柔軟な運用が可能な短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機を含む戦闘機体系の構築等により、特に、広大な空域を有する一方で飛行場が少ない我が国太平洋側を始め、空における対処能力を強化する。その際、戦闘機の離発着が可能な飛行場が限られる中、自衛隊員の安全を確保しつつ、戦闘機の運用の柔軟性を更に向上させるため、必要な場合には現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とするよう、必要な措置を講ずる。

 この記述も踏まえて、いずも型護衛艦の改修とF-35Bの運用構想を改めて整理してみると、(1)平時からグレーゾーンでのプレゼンス・オペレーション、(2)南西正面での島嶼防衛、(3)太平洋正面での防空(空母艦載機・爆撃機部隊に対する洋上阻止攻撃)、(4)(2)+(3)の複合事態対処という、概ね4つのシナリオが想定されていると考えられる。

 (1)の有効性については前述の通りだ。これらの組み合わせが平時に日本の存在感をアピールする効果は大きい。将来的に、米海兵隊や英海軍のF-35Bが海自の護衛艦に離発着する共同訓練が行われるであろうことは想像に難くない。ただしそうした活動のために、多額の費用をかける合理性はあるのか。既に通常のいずもや護衛艦が行っているパトロールと比べて、抑止効果に大きな差があると言えるかという疑問は残る。

 (2)の点については、南西正面での軍事衝突を想定したシナリオ分析において、戦闘機の離発着拠点の不足から、航空優勢の確保が難しくなるという評価結果が出ていたとしても不思議ではない。事実、空自の戦闘機部隊は、那覇基地が緒戦のミサイル攻撃などによって使用不能になれば、復旧までの間は(米軍基地を除けば)沖縄以西まで800km以上離れた築城(福岡)や新田原(宮崎)からの作戦を余儀なくされ、独力での航空優勢確保は絶望的となるだろう。そのため、短い滑走路からでも離発着が可能なF-35Bを一定数導入して、航空戦力に冗長性を確保しようという発想は理にかなっている。

 他方、南西正面で想定される航空優勢をめぐる戦いは、数百機の戦闘機や各種ミサイルが入り乱れるハイエンドな戦闘になると考えられるため、十数機のF-35Bでは、那覇のF−15ないしF-35Aの喪失を埋めるだけの戦力はどのみち確保できない懸念も残る。また、そこに緊急離発着用のいずも型護衛艦がいたとしても、それ自体が相手の優先攻撃目標となる可能性が高い。加えて、地上航空基地と異なり、空母は一度大きな損害を受けると復旧が困難であるため、ハイエンド環境が予想される場合には、中国のミサイル射程圏外に後退せざるをえない。そうなれば、F-35Aよりも戦闘行動半径の短いF-35Bは、余計に運用機会がなくなるということもありうるだろう。

 (3)にある太平洋側の防空体制強化の必要性は、25大綱でも僅かに言及されていたが、今回いずも型の改修を行う理由づけとして全面に出された論理である。確かに小笠原周辺の対領空侵犯措置には、硫黄島を使わない限り、百里(茨城)などから対応する必要があり対処に時間がかかってしまう。また近年では、中国艦艇とH-6K爆撃機が連携して第一列島線を越え、西太平洋地域での活動を活発化させていることが米国防省の報告書でも言及されている。このような傾向を踏まえ、有事の際には米軍が来援する前に、太平洋側にいずも型護衛艦とF-35Bを展開して、中国の爆撃機部隊を阻止したいとの問題意識を持つことは適切であろう。

 議論すべきはその対抗策の実効性である。改修後のいずも型に搭載できるF-35Bは8機前後と言われているが、たった8機の艦載機で、南西の防衛線を突破した中国の爆撃機部隊に対して有効な阻止攻撃を行うことは可能なのであろうか。実際これらの爆撃機部隊は、J-16のような航続距離の長い戦闘爆撃機や、J-20やJ-31といった第5世代機に援護されていると考えるのが自然であり、F-35Aと比べて兵器搭載量や運動性能に劣るF-35Bでは一筋縄ではいかないかもしれない。また米軍の正規空母と異なりカタパルトのないいずも型護衛艦では、防勢的対航空作戦の要となる艦載型の早期警戒管制機や電子戦機を離発着させることができない。

 更に(2)と(3)の事態が同時に生起する台湾防衛のようなシナリオでは、まず南西正面で戦闘機の離発着拠点が必要となる可能性が大であり、太平洋側に貴重ないずもとF-35B(+随伴のイージス艦)を配備しておく余裕はないのではないだろうか。

 以上のように、いくつか想定したシナリオの中でも、いずも型護衛艦とF-35Bが有効に運用できる状況は、平時からグレーゾーンでのプレゼンス・オペレーションに限定されるだろう。だがそれは、現在中国が行っている空母運用の狙いと同床のように映る。中国の空母プレゼンスに同じ空母で対抗するという発想は、自陣営で有利なドメインを選択して競争を優位に進めようという「競争戦略」ないし「コスト賦課」とは真逆の発想で相入れない。こうした正面競争をしてよいのは、同じドメインで力比べをして勝つ見込みがある場合だけだ。将来の安全保障環境を鑑みたとき、予算や人的資源の面を考えても、日本が中国に対して劣勢に立たされることは明らかである。

 それならば、正面から競争するのではなく、日米共同を明確化させた上での対潜水艦戦や、南西の列島線上に分散配置した長射程の地対艦・地対空ミサイルによる拒否戦略のように、日本が優位に戦えるドメインで相手にコストを強いること重視すべきであろう。元々いずも型護衛艦には、対潜哨戒ヘリの指揮プラットフォームとしての重要な役割があったはずだ。F-35Bの離発着能力を追加して多用途運用するというのは一見便利そうではあるが、戦闘機や対潜哨戒ヘリといった搭載モジュール交換式の多用途装備は、一定期間の猶予があれば対応する任務を選択できるものの、対艦モードと対空モードを発射直前に瞬時に切り替えられるSM-6のように、個別の戦闘局面でマルチに使えるものではない。アセットの多用途化は、そのぶん運用構想の複雑化や要員の訓練時間が分散され、非効率化にも繋がる。

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