WEDGE SPECIAL OPINION

2021年11月9日

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勝股秀通 (かつまた・ひでみち)

日本大学危機管理学部教授

1983年に読売新聞社入社。93年から防衛問題担当。民間人として初めて防衛大学校総合安全保障研究科(修士課程)修了。解説部長、編集委員などを経て、2016年4月から現職。

台湾の危機は、起きるかどうかではなく、いつ起きるかの問題になりつつある。「Wedge」2021年11月号に掲載され、好評を博したWEDGE SPECIAL OPINION「台湾有事は日本有事 もはや他人事ではいられない」では、現実味を帯びてきた台湾有事に備える術を検証しております。記事内容を一部、限定公開いたします。全文は、末尾のリンク先(Wedge Online Premium)にてご購入ください。

 4人の候補者がしのぎを削った9月の自民党総裁選。オンライン討論会での舌戦を伝える新聞各紙の見出しに、日本の病巣を感じたのは、私だけではあるまい。

 「尖閣対応へ法改正」、「敵基地攻撃の議論喚起」、「防衛力強化 4氏一致」──。いずれも中国の台頭、北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に議論されたのだが、並んだ見出しは、少なくとも5年、10年、そして20年前から、日本の平和と安全にとって喫緊の課題として、検討にとどまらず、実行の必要性を求められてきたものばかりだった。言い換えれば、政治の不作為によって放置し続けた問題が、候補者たちによって繰り返されただけだった。

 国際政治学者の北岡伸一氏は、かつて「日本の安全保障-冷戦後10年の地点から」(外交フォーラム1999年特別編)の中で、安全保障には、①自国を守ること、②周辺地域を安定させること、③世界の秩序を維持すること──の三つのレベルがあると分析し、「自国」-「周辺」-「世界」という自らの平和と安全に密接な順番で、安全保障システムを構築するのが、世界の常識だと説いた。しかし、冷戦後の日本は、1990年代の湾岸戦争や朝鮮半島危機といった外的要因に迫られ、「世界」-「周辺」という世界の常識とは逆のコースで安全保障に取り組んできた。しかも、決して自らが主体的に取り組んだわけではなかった。

 本来なら、その後に深刻化する北朝鮮の核武装とミサイル開発、軍事強国化する中国の海洋進出という危機を前に、「自国」の安全を高めるシステム、換言すれば、国民の命を守るシステムを構築しなければならなかったはずだが、それを怠ってきた。ただし、日本が直面する軍事的脅威は、政治の不作為を悲観している猶予などないほど深刻さを増しているのも事実である。

 新型コロナウイルスによるパンデミック(感染爆発)で、私たちが目の当たりにしてきたのは、「危機に弱い政府」という致命的な現実だった。そう遠くない将来、高い確率で発生することが予想されていたにもかかわらず、政治は現実を直視してこなかった。不作為の代償によって、1万7000人を超す人々が命を落としたといっても過言ではない。

 しかも、コロナ禍の8月に起きたアフガニスタンからの邦人らの退避も、外務省と現地大使館の状況判断の甘さに加え、政府の決心が遅れて失敗した。政府は、爆弾テロなどで現地が混乱し、日本大使館や国際協力機構(JICA)に勤務する現地スタッフとその家族ら約500人をアフガン国外に退避させられなかったと説明する。

アフガニスタンからの邦人退避の失敗はじめ国家の危機に対する「政治の不作為」が続く(THE MAINICHI NEWSPAPERS/AFLO)

 だが、現地情勢に詳しい民間軍事会社の関係者によると、「500人というのは雇用中の数字で、退職した現地スタッフや協力者を合わせれば、その数は1500人に上る。彼らには日本から給与が振り込まれており、アフガンの実権を握ったタリバン政権は、彼らの銀行口座を調べている。日本への協力の濃淡に応じて処罰される可能性がある」と話す。

 今回の失敗は、日本の国際的な信頼を失墜させただけでなく、人道上の禍根も残すこととなった。そもそも危険(リスク)があるから民間機ではなく自衛隊機を派遣するにもかかわらず、派遣の要件には「輸送の安全が確保されている場合」(自衛隊法84条の4)という文言が加えられていた。現実と条文の矛盾は何度も指摘されており、機を失した今回の派遣は、矛盾から目を背けてきた政治の責任でしかない。

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