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2021年8月25日

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勝股秀通 (かつまた・ひでみち)

日本大学危機管理学部教授

1983年に読売新聞社入社。93年から防衛問題担当。民間人として初めて防衛大学校総合安全保障研究科(修士課程)修了。解説部長、編集委員などを経て、2016年4月から現職。

 尖閣危機で目指すべきゴールは何か――。それは中国には尖閣諸島に指一本触れさせないことだ。「奪われたら取り戻す」などと勇ましい発言も聞こえてくるが、奪還できたとしても、とてつもなく大きな犠牲を払うことになる。しかも対中関係は、政治、国民すべてのレベルで極度に悪化し、将来世代に禍根と新たな危機を残し続ける愚策でしかない。

 そのために今、何をなすべきか。まず放置してきたグレーな状況を解消するために、現行法制やシステムの問題点を大急ぎで洗い出し、必要な立法措置を講じて、中国に対し日本の意志と能力をはっきりと示すことだ。

(AP/アフロ)

中国海警法にどのように向き合うか

 今年2月に施行された「中国海警法」は、中国共産党中央軍事委員会の指揮下に編入され、人民解放軍隷下の準軍事組織となった海警局に対し、軍事的な役割と権限を付与したもので、注視すべき内容の一つは、次に示す22条の規定だ。

 「国家の主権及び管轄権が不法に侵害され、または不法に侵害される危機が差し迫っているときは、その侵害を停止し、危険を除去するために、武器の使用を含むあらゆる必要な措置を講ずる権利を有する」

 この条文は、主権侵害(おそれを含む)に対して、海警局の武装船はあらゆる必要な措置を講じるという旗幟を鮮明にしている。意味するところは、中国の警察権に基づいた従来の海上における治安維持機関という役割に加え、自衛権を行使する軍事的な活動を任務として付与されたということであり、尖閣問題で海警局は中国の自衛権を行使するという宣言でもある。

 これに対し、海警局と対峙する海上保安庁は、「海上保安庁法」2条の任務規定に基づき、24時間態勢で尖閣諸島の周辺海域で領海警備に取り組んでいる。同規定は「海上における犯罪の予防及び鎮圧」「海上の安全及び治安の確保を図る」と明記されており、その文言から類推できる活動として、海保は今、実質的な領海警備を行っている。

 もちろん海保は治安維持機関として、武器の使用は警察権である「警察官職務執行法」(警職法)を準用し、正当防衛と緊急避難のほか、3年以上の懲役・禁固刑に処せられる「凶悪な犯罪」に対しては、殺傷を伴う危害射撃が認められている。海警法の施行を受け、政府は海警局の艦船の乗組員らが尖閣諸島に上陸しようとした場合には、危害射撃は可能との見解を示したが、ここに大きな認識の誤りがある。

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