その結果、日本では「有事」とは戦争のことであり、それ以外は「平時」という認識が染みついてしまった。しかも戦争は滅多に起こらないから、現行法や国家システムのほとんどは、平時を前提にしたものでしかない。阪神淡路大震災や東日本大震災でも指摘されたが、この体制の欠陥を改めて浮き彫りにしたのが、新型コロナウイルスへの対応だった。名前は緊急事態宣言であっても、法的な強制力はなく、外出自粛や店舗への休業、路上飲み禁止も、国民に「お願い」しかできない現状は、その象徴だ。
そして今まさに、パンデミックでの失敗を、繰り返そうとしているのが尖閣危機だ。これ以上、有事から目を背けてはいけない。危機を回避するには「海警局並み」と記したように、海上保安庁の行動を平時においても自衛権が行使できるシステムに切り替えることだ。
海保は自衛権で領海警備せよ
前述したように、外国の軍艦や公船に対する警察権行使には、国際法上限界があり、武力攻撃を伴わない主権侵害に対して日本は無防備だ。これを打開するには、外国の軍艦や公船に対し、武器を使用する根拠を現行の警察権から平時の自衛権に改め、そのために必要な法整備を進める必要がある。
その順序だが、2015年に平和安全法制が修正、整備され、「重要影響事態」「緊急対処事態」「武力攻撃予測事態」「武力攻撃事態」「存立危機事態」の5事態を日本の平和と安全にかかわる事態とした。このうち、大規模なテロなどを想定した「緊急対処事態」の中に、尖閣諸島で繰り返されている悪質な領海侵入を追加し、5事態に対応する行動の根拠は、すべて自衛権とするという法改正を急ぐ必要がある。
そのうえで、新たな自衛権発動の要件として、5事態においては、平時と有事を問わず、主権侵害の程度や状況に応じて自衛権を発動することを、政府が閣議決定し、国会で与野党が合意すれば十分なはずだ。
これと並行して、新たに自衛権の担い手となる海上保安庁に関わる法改正が必要となる。まず海保法2条の任務規定に、「領海警備」を明記することだ。そのうえで問題となるのは同法25条の規定だ。
この規定は「この法律のいかなる規定も、海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めることとこれを解釈してはならない」と定められ、軍隊として行動することを禁じている。
従来、自衛権の発動は有事(戦争)の時だけで、担い手は自衛隊だけだったからだが、新たな自衛権発動の要件には、領海侵入事案が含まれるため、25条に2項を新設し、「ただし、悪質な領海侵入事案など海上における主権侵害行為には厳正に対処する」との条文を追加する必要がある。
厳正な対処のための武器使用など具体的な行動と権限については、その根拠を警職法から自衛権に書き換えれば、海保法はようやく中国海警法並みとなる。ほぼ同じ内容の法制度であり、中国から抗議を受ける懸念はなく、日本が尖閣諸島を守り切る強い意志を示すことができるだろう。