コロナ禍で過ごす2度目の夏を迎えたが、東京を中心とした全国的な感染拡大に歯止めがかからない。国内感染者はついに累計100万人を突破し、医療現場は苦境に立たされている。
その一方で、市中には感染拡大初期とは異なった「二律背反」ともいえる矛盾と分断が広がっている。4度目となる緊急事態宣言は回を重ねるごとに〝宣言慣れ〟が進み、自粛要請の効果が薄れる一面もあれば、いまだ自粛圧力によりイベントや学校行事などが中止に追い込まれる事例もみられる。
このような状況について、行動経済学を専門とし、人間の行動心理に詳しい京都大学大学院経済学研究科の依田高典教授は「ギリギリまで有観客での五輪開催にこだわる一方で、酒類の提供停止に応じない飲食店へ金融機関から圧力をかける方針を出すなど、アクセルとブレーキを同時に踏む矛盾した政府のメッセージが国民の行動に与えた負の影響は大きい。その経緯を国民に説明しないことで、反発をしたい人には政府要請に従わないことに理由を与え、不安な人には一方的な自粛圧力をさらに強めるきっかけを与えることになった」と指摘する。
膠着状態が続く日本のコロナ対策で求められる次の一手はあるのか。感染症対策コンサルタントの堀成美氏は「もはや『外出自粛』というメッセージを発し続けるだけでは国民の意識は変わらない。新たな情報や方針が示されない状況が長引くほど、ローカルルールが乱立し、一人歩きしていく。国は将来に向けたロードマップを示す時期にきている」と述べる。
そのロードマップの柱となりうるのが、ワクチンの普及に応じて新たな日常を取り戻していく〝出口戦略〟だ。
「例えば、米国では、接種率が高くない一部の地域を除いて、両家族の成人全員がワクチンを打ち終わっていれば、マスクをせずにホームパーティーをしても構わないという方針をとっている。単発的に感染が発生するリスクはあっても、ワクチンの効果に関するデータに基づいて感染拡大にはつながらないと判断したからだ。その他にも、約1億円の宝くじ抽選券や交通機関の期間限定乗り放題、動物園や水族館の入場無料券など、各州で独自に『ワクチン特典』が導入された。このようなワクチン接種の具体的なインセンティブを国民に提示したことは、米国全体のワクチン接種率向上に寄与したとみられている」(同)
ワクチン接種を踏まえた行動制限の緩和の動きは今や、世界各国に広がっている。家族との繋がりを重んじる儒教思想が根付く韓国では、感染対策で家族と会えないことが国内全体の大きなストレスとなっていたが、6月からワクチン接種受けた療養型施設の入所者については、家族との対面による面会が可能となった。
成人のワクチン接種率(1回目)が8割を超える英国のジョンソン首相は7月5日に「コロナと共に生きる計画」を発表した。コロナ対策における今後の方針を国民に示し、同19日から全面的な制限解除に踏み切った。集会やイベントの参加人数制限や劇場・映画館での収容人数制限、マスク着用義務化などを撤廃し、ナイトクラブの営業を再開した。ただし、PCR検査や抗体検査を用いて感染者や濃厚接触者を早期発見し、自主隔離を求める方針は継続する見込みだ。