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2021年2月19日

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山岸義晃 (やまぎし・よしあき)

大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部 未来医療センター特任准教授

1998年大阪大学医学部卒業。2009年大阪大学博士(医学)。独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)ワクチン等審査部主任専門員、厚生労働省健康局結核感染症課新型インフルエンザ対策室ワクチン専門官等を経て2020年1月より現職。

 ※本記事は2021年2月8日時点の情報に基づいている。

 2020年2月、中国・武漢に端を発した新型コロナウイルスが世界中に広がろうとしているなか、米・国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長が「1年以内に何らかのワクチンができるだろう」とインタビューに答えたとの米CBSの報道を、私は懐疑的に聞いていた。

神奈川県川崎市で行われたワクチン集団接種に向けた訓練 (REUTERS/AFLO)

 今までさまざまな感染症に対してワクチンが開発されてきたが、ワクチンそのものができるまでには数年かかり、さらに数回の臨床試験を経て、最終的に発症抑制効果を確認するための大規模な臨床試験の実施にも2~3年以上必要となるのが、この業界の常識だったからだ。ファウチ所長は、社会に希望を持たせるために、できもしないことを言っているのではと、そのときの私は考えていた。

 ところが、世界保健機関(WHO)によれば、今や世界42カ国(1月7日時点)で新型コロナのワクチン接種が開始、または開始される見通しだとされ、わが国でも準備が進んでいる。日本政府は、以前から海外のワクチンの確保に注力しており、2月8日時点で、厚生労働省が国内での供給に向けて確保しているのは①米ファイザー・独ビオンテック、②英アストラゼネカ・オックスフォード大学、③米モデルナの3社が開発したワクチンだ。

 これらのワクチンでは、これまでの人類の歴史のなかで、医薬品としてほとんど使われたことがない「mRNAワクチン」や「ウイルスベクターワクチン」という新規技術が導入されている。

ウイルスの感染と
免疫ができる仕組み

 そもそもウイルスはどのようにしてヒトへと感染し、免疫ができるのかを簡単に説明しよう。ウイルスが感染するときは、ヒトの細胞に入り込み、自分の遺伝子を持ち込んでウイルス自身を構成するタンパク質や遺伝子を複製する。そこでできたタンパク質などを細胞が異物と認識して免疫ができる。

 これまでBCG、麻しん・風しん混合(MR)ワクチンなどで用いられていた「生ワクチン」は、弱いウイルスを使って、その仕組みを利用したものだ。一方で、十分に病原性が弱くなっていないと、体の中で増えすぎて病気を発症してしまう。そのため、安全な生ワクチンを作り出すには長い時間がかかると考えられていた。

 一方で、タンパク質を作る部分の遺伝子だけを細胞内に送り込めば、生ワクチンと同じ種類の免疫を、そのウイルスに感染することなく、安全に作り出すことができる。そのようなコンセプトで開発されたのがファイザー・ビオンテックやモデルナの「mRNA」ワクチンだ。同じような戦略で、新型コロナウイルスの遺伝子をヒトの体内では増えないウイルスに搭載して、細胞に運ぶ「ウイルスベクターワクチン」を採用しているのがアストラゼネカ・オックスフォード大や、中国やロシアのグループである。

 これらのワクチンでは、想定以上の発症予防効果がでている。当初、WHOに集められた専門家のグループはおおむね50%程度の発症予防効果がでれば、緊急時に使うワクチンとして十分と考えていた。これは、通常、国民に広く接種するワクチンとしてはかなり低い目標値だった。要するに、緊急時なので、早く手に入るのであれば、多少、効き目が弱くてもかまわないと世界中の専門家が考えていたのだ。

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