2024年12月10日(火)

WEDGE REPORT

2020年9月29日

社会経済活動を再開する前に、感染症との闘いで傷ついた人々の不安をどうケアすれば良いのか。科学コミュニケーションの専門家である二人に聞いた。

編集部(以下、──)政府は「感染拡大防止と社会経済活動の両立」を掲げていますがそれは可能でしょうか。

【詫摩雅子(Masako Takuma)】
科学ジャーナリスト。1990年千葉大学大学院理学研究科修士課程修了、日本経済新聞社に入社。科学技術部を経て、日経サイエンス編集部。医療、心理学などの分野を担当。2015年日本医学ジャーナリスト協会大賞(新聞・雑誌部門)受賞(共著)。日本科学未来館勤務。

 みんなの不安が高まっており、いきなり社会経済活動を再開するのは難しそうですね。半年以上にわたる未知なる感染症との闘いで傷つき、心にダメージを受けた人々へのケアが必要だと思います。

詫摩 堀さんや同僚の科学コミュニケーターたちと一緒に、4月から7月までニコニコ生放送で新型コロナウイルスに関する情報提供をしてきました。そこに寄せられた視聴者のコメントでも「宅配便の段ボールはすべてアルコールで拭いたほうがいいんですか?」といった不安の声がありました。人によって新型コロナの受け止め方はバラバラですし、地域によって状況も異なります。個別事情を考えながら、それぞれに何ができるのかを考えていく必要がありそうです。

【堀 成美(Narumi Hori)】
感染症対策コンサルタント。神奈川大学法学部、東京女子医科大学看護短期大学卒業。国立感染症研究所実地疫学専門家コース(FETP)修了。聖路加看護大学助教、国立国際医療研究センター感染症対策専門職等を経て現職。国立国際医療研究センター国際診療部客員研究員。

 今回の新型コロナ対策の大きな反省がそこにあります。一つ一つの不安の声を聞いて、科学的根拠に基づいて丁寧に説明する場がほとんどなく、コミュニケーションが成立していません。「3密を避けましょう」「県外移動はやめましょう」といった「してはいけない」という表現が、一方通行のかけ声として出されてしまいました。最初は新型コロナがどのくらいの脅威になり得るのかが誰もわからず、致し方なかったとは思います。ですが、どうしても行かなければならない場合はどう工夫できるかを合わせて伝えられていたら、受け手の印象はだいぶ違ったと思います。

詫摩 あるいは「近場の探検をしましょう」などのポジティブな代案をもっと発信すれば良かったかもしれませんね。「してはいけない」が繰り返されると、それを守らなかった人を「悪」とみなすような空気が生じてしまいます。いわゆる「自粛警察」と言われるような人も出てしまいました。

── 政府や行政の会見では「夜の街」や「若者」といった特定の場所や人々を名指しする発言が目立ちました。

詫摩 6月まで厚生労働省に設置されていた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は、3月2日に若者(10代~30代)に対して「皆さんが、人が集まる風通しが悪い場所を避けるだけで、多くの人々の重症化を食い止め、命を救えます」と発信しました。

 あの後、SNSでは「若者を悪者にしようとしている」と受け止める声がありました。卒業や入学など人生に一度きりのイベントを控えた時期であることに言及した上で、それでもお願いしますというような発信にすれば、受け止める側も、もう少し穏やかになれたかもしれません。ほかの世代の若い世代へのまなざしも変わったでしょう。


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