2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2020年9月29日

── SNS上でも海外在住者や医師などが独自の警鐘を鳴らしました。

詫摩 SNSでは典型的なエコーチェンバー(共鳴室)現象、つまり同じ考えの人同士が閉じたネット空間でつながって意見交換をするので、その意見を強く信じてしまいました。それがPCR検査の拡大や緊急事態宣言発出の是非など、意見の対立を深めてしまいました。私は科学コミュニケーターの同僚たちと共に、SNSでの両極端な意見の端から端までなるべく見て、分断を埋めるような情報提供を努めましたが、足りなかったと感じます。

── 市民の新型コロナへの不安を取り除くにはどうしたら良いでしょうか。

 新型コロナも最初は未知のウイルスでしたが、現場の医療従事者の努力で、感染経路や人にうつす力、対処の仕方など、多くのことがわかってきています。これらの情報を基に、不安の声の一つ一つに対して、「こうすればできる」という前向きな発信にしていけば良いと思います。

詫摩 学校でクラスターが生じると、先生が謝罪会見をして、それが全国放送で流れています。でも、行政の定例の記者会見で「学校でクラスターが発生しましたが、濃厚接触された方々にはすでに連絡ずみですので、大丈夫です」と伝えた方が地域の方の不安をあおらずにすむのではないでしょうか。

 事業者は椅子の消毒といった、過剰な対策を止めるタイミングがわからなくなっています。政府や行政が「やめていい」ものは明示しつつ、「こうすれば営業できる」ということを個別に相談にのる窓口があると良いと思います。

詫摩 マスクも同じですね。8月の暑いときに、他人との距離も十分にあるのに、街中でマスクを着けている人を多く見ました。そうした人たちの「誰かにうつしちゃいけない」という優しさをくみとりつつ、こういうときは外して良いですよ、と伝えていきたいです。ニコニコ生放送に来たコメントでは、平安貴族のように、話すときは扇子で口元を隠したらどうかというステキなアイデアもありました。

── 社会で連帯してリスクを減らせば、社会経済活動を再開できます。

 別の病気でも同じですが、学校でも仕事でも、これまでのシステムや考え方では授業が受けられなくなったり、日雇い労働者の給料が出なかったり「自己隔離したら自分が損する」ようになってしまう。休んでも後から録画で授業を受けられたり、在宅勤務で最低限必要な資料は作れたり、1日単位で休業補償を受けられたりといった取り組みがもっと進めば、体調の悪いときは出歩かずに家で休む社会になれます。感染症の対策として重要です。

詫摩 感染者に関する情報については公衆衛生の担当者からの発信を充実させ、政治のリーダーは感染予防の取り組みを一緒にがんばれるよう、モチベーションを維持する発信に力を入れていただければ、みんな安心できるのではないでしょうか。

 社会に不安と分断があるときに、感染症の対策はうまくいきません。特定業種の営業停止といった私権の制限にも議論が及びつつありますが、まずは連帯を促し、前向きに感染予防をしながら暮らしていくのを目指していきたいですね。それを尽くしても、大勢の死者や重症者が出そうだと判断されたときに初めて、私権の制限が出てくるのではないでしょうか。(聞き手・編集部 櫻井 俊)

Wedge10月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
新型コロナ  こうすれば共存できる
Part 1  ・新型コロナは〝ただの風邪〟ではない でも、恐れすぎる必要もない
           ・正しく学んで正しく恐れよう! 新型コロナ情報を読むレッスン
           ・医療現場のコロナ対応は改善傾向 それでも残る多くの〝負担〟
Part 2  ・「してはいけない」はもうやめよう 今こそ連帯促す発信を
           ・コロナショック克服へ 経済活動再開に向けた3つのステップとは
           ・なぜ食い違う? 政府と首長の主張
           ・動き始めた事業者たち 社会に「価値」をもたらす科学の使い方   
Part 3    煽る報道、翻弄される国民 科学報道先進国・英国に学べ  
Part 4    タガが外れた10万円給付 財政依存から脱却し、試行錯誤を許容する社会へ    
Part 5    国内の「分断」を防ぎ日本は進化のための〝脱皮〟を

  
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◆Wedge2020年10月号より

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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