2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2020年9月29日

 感染症の流行期には、簡単に差別や偏見、パニックが起こります。だからこそ政府や行政は、それが起きないように発信しなければなりません。平時からその準備ができていればよかったですが、専門家会議にはコミュニケーションの専門家がいませんでした。感染が広がった3月には、都道府県の知事が深夜でも感染者発生を「緊急」の記者会見で発表していました。深夜のタイミングで一般の人にできることは何もなく、さらに不安が募ってしまったのではないでしょうか。

──「新宿」「池袋」など特定の地域に対する不安も募りました。

詫摩 新宿も池袋も面として広く、例えば新宿御苑を散歩して感染するとは思えません。新型コロナでは、せっかく早い段階で「3密」という「こういうシチュエーションが危ない」ということを見いだして「3密を避けよう」としていたのに、いつのまにか地名が出てきてしまった。新宿でもどこでも3密状態のスポットを警戒すべきであって、面としての地区がまんべんなくリスクが高いわけではないのです。

── 行政のガイドラインも政府の発信に沿ったものになっています。

 例えば、東京都は事業者に対して、「都や業界団体のガイドラインを遵守し、『感染防止徹底宣言ステッカー』を掲示していただくよう強くお願いします」としています。その「東京都感染拡大防止ガイドブック」では、「従業員間でできるだけ2メートルの距離を保つ」「靴底消毒を徹底」などとあります。でも、都庁に行くとそんなことはされていない。

詫摩 最初はわからないことだらけでしたし怖いですから、少しでも効果のありそうなものは、つい加えてしまう。それを解除するのは難しいですよね。「それで感染者が出たらどうするの?」となってしまう。でも、実行が難しいことやコストがかかることは、長続きしません。事業活動ではなおさらでしょう。最初から、ガイドラインの見直しを運用方法に入れておくと良いかもしれませんね。

── 市民の不安を高めたのはメディアの影響も大きいのでは。

 社会不安は勝手に生じるわけではありません。作られるものです。2014年にアフリカでエボラ出血熱が流行し、日本でも「エボラ疑い」の人が出たころ、あるテレビ番組制作会社から「ドラマを作りたい」と協力依頼がありました。そのシナリオは「海外から帰国した夫が妻にエボラ出血熱をうつしてしまう」というもの。エボラは症状が出た人の体液が目や鼻、口、キズなどに接触しないとうつらず、非現実的なシナリオでした。恐怖をあおろうとしていたので、協力をお断りしたことがありました。

詫摩 日々の陽性者数についての報道の仕方も結果的に不安を募らせることにつながってしまったのかもしれません。いつからか各社が「関係筋」から聞いた「今日の感染者数の見込み」を速報で流すようになりました。テレビで災害の発生のように周知音をつけて速報テロップを出せば、大変なことが起きたと感じてしまいます。

 陽性者数の情報は速報するのに、その後、その人たちがどうなったのかの報道はほとんどなかったですね。実際8月には、無症状や軽症で自宅やホテルで隔離されていた人たちが毎日のように多数復帰しています。

詫摩 国や東京都の専門家がテレビに出ても、キャスターからの質問が重症者に関することばかりではやはり不安になります。「軽症で終わる方の経緯は?」など不安を打ち消す答えを引き出せる質問は少なかった。後からわかってきた知見もたくさんあるのに、専門家の先生方も次々にわかる新型コロナの正体をテレビや会見では伝えきれず終わっていたと思います。


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