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2020年12月21日

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武藤義和 (むとう・よしかず)

公立陶生病院感染症内科主任部長

2008年岐阜大学医学部卒業後、公立陶生病院の研修医。岐阜大学高次救命センター、大垣市民病院呼吸器内科、国立国際医療研究センター総合感染症コース・チーフレジデントなどを経て現職。

 2019年12月。中国の武漢で原因不明の肺炎の患者が多発した。いずれの患者も同様の経過をたどり、場合によっては重症化して亡くなることもあった。事態を重く見た世界保健機関(WHO)は職員を中国に派遣し、20年1月初旬に新型コロナウイルス(ウイルス名:SARS-CoV-2、以下、新型コロナ)による感染症であることが明らかとなった。

人々が集まり、価値を共有しながら過ごすには、どうすれば良いのか――(PHOTO BY KYODO NEWS/GETTYIMAGES)

 そこから瞬く間にパンデミックを起こし、世界の感染者数は、20年11月末時点で6000万人、死者数は140万人を超えており、その勢いはとどまるところを知らない。日本でも冬に入り、気温が下がっていくにつれて「気温が低く湿度が低いと感染が広がりやすい」「コロナ禍で初めて迎える冬を乗り越えられるのか」といった警鐘が鳴らされ、報道は過熱気味である。

 しかし、当初は感染したら命に関わり、人間社会を破滅に導く恐怖のウイルスという印象を持たれていた新型コロナだが、徐々にその正体が分かり、治療、感染対策、考え方も定まってきている。自分にとって大切な人や社会を守るために、新型コロナを「正しく理解し、正しく怖れる」を実践できる社会にしたい。そこで、この1年間で分かったことを今一度総ざらいして、これからの指針を考えていきたい。

※本記事は20年12月9日時点の情報に基づいています。

新型コロナの感染を
コントロールしにくい理由

 コロナウイルスとは、人間の風邪のウイルスとして昔から存在しているものである。毎年の風邪のうち15%はこのウイルスが原因とされていた。風邪というのは鼻水や発熱、のどの痛み(咽頭痛)のように首から上に症状が出ることが多いが、新型コロナは肺炎を起こすウイルスである。すなわち、発熱に加え、咳、息切れ、だるさなどが中心の症状となる。

 発熱はインフルエンザのように突然の震えの後に40℃を超えるというものではなく38℃前後であることが多い。逆に鼻水などは少ないとされている。報道でも多く取り上げられた嗅覚・味覚障害という症状も特徴的とされていたが、多くは若い方、特に女性に多いとされている。発生当初から診療にあたっている筆者の経験でも60歳以上の人はほとんどそうした自覚症状はない印象だ。

 新型コロナで、特筆すべきは実に「半数近くの人が無症状」と言われていることである。ダイヤモンド・プリンセス号でも3622人の乗客乗員のうち712人が検査で陽性と診断されたが、そのうち半数には全く症状がなかった。さらに厄介なのが、この「無症状の人が感染力を持つ」ことだ。

 一般に感染症は感染したらすぐに発症するわけではない。例えば麻疹(はしか)なら感染して2週間程度経過後に発熱する。結核では感染しても数十年間、全く症状がないこともある。03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)や、12年の中東呼吸器症候群(MERS)は感染力のピークは発症後であった。

 一方、新型コロナは感染してから4~7日後に咳や発熱などで発症するが、その2日前からすでに感染力があり、発症後、数日間程度、感染力が持続すると言われている。そのため、感染者自身も知らない間に感染を広めてしまうという非常に厄介な特徴があり、それが感染をコントロールしにくくしている。

 感染対策においては、検査によって感染者を把握し、感染をコントロールする手法が一般的である。しかし、新型コロナについては発症前だと陰性、つまり見つけ出すことができないと言われる。それどころか、PCR検査などでは感染してからも最長で3カ月程度は陽性になり続けると言われており、人にうつさなくなってからも陽性になることがありうる。つまり、検査のタイミングが非常に大事であり、無症状でも検査をすべき人は、陽性になっている可能性が高い人、つまり感染者の濃厚接触者などとなる。

 PCR検査を「いつでも・誰でも・何度でも」ということにしてしまうと、不必要な検査が増えるのみならず偽陽性や偽陰性の懸念も増加し、費用的にもメリットはない。とはいえ検査可能な件数が現状で足りているわけでもないため、真に検査をすべき人に必要なタイミングで行き渡るよう、的を絞ったPCR検査の拡充は必要である。

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