2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2020年10月5日

新型コロナ対策に乗じた全国民への〝ばらまき〟施策は国の財政規律を狂わせる。財政学者2人にウィズコロナ時代における政策決定のあるべき姿を聞いた。

編集部(以下、──)政府は新型コロナウイルス対策として、約120兆円にのぼる財政出動を実施しました。

【土居丈朗(Takero Doi)】
慶應義塾大学経済学部教授。専門は公共経済学、財政学、税制等。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手等を経て現職。『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社)で2007年度日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞を受賞。近著に『平成の経済政策はどう決められたか アベノミクスの源流を探る』(中央公論新社、2020年)がある。
(写真=NORIYUKI INOUE)

土居 10万円の特別定額給付金については本当に有効な政策だったのか疑問に感じています。受給者に現金支給する政策手段は、日本では年金、生活保護、児童手当などに限られます。高所得者に限っては10万円を配った後で所得税を増税するというパッケージで政策を講じるならまだしも、現時点でそうなっていません。

── 当初は、特定の世帯に30万円を支給することになっていました。

土居 本当はそれで良かったのではないかと思います。全員に10万円を支給することになった背景には、〝反緊縮〟の政治的圧力があったと考えます。つまり、「10%への消費増税」や「2025年までに基礎的財政収支を黒字化する」という財政健全化路線に対する政治的不満が「新型コロナという危機」を追い風にして、タガを外すことに加担してしまったのではないか、ということです。民意は「もっと出せ」ではなく、「いつ収束するか分からない不安を解消してほしい」ということだったのではないかと思います。

【齊藤 誠(Makoto Saito)】
名古屋大学大学院経済学研究科教授。専門はマクロ経済学、金融論等。マサチューセッツ工科大学経済学部博士課程修了。住友信託銀行調査部、一橋大学大学院経済学研究科教授等を経て現職。近著に『危機の領域 非ゼロリスク社会における責任と納得』(勁草書房、2018年)がある。
(写真=​NORIYUKI INOUE)

齊藤 私も同感です。緊急措置として、全員支給は仕方がなかったとしても、経済的に十分な余裕のある人からは、税金など何らかの形で回収する仕組みを同時並行でつくると思っていました。例えば、東日本大震災の際には、「復興特別所得税」という形で、震災後に税金を払える人から所得税とは別枠で回収する仕組みを設けました。

 ところが、今回の定額給付金は所得とは切り離されてしまいました。つまり、国民のだれもが費用負担しない形で、財源論は最初から棚上げされたまま、本当の意味での〝ばらまき〟をしてしまった。

 同じ財源があるならば、緊急事態宣言が解除されてもなお、苦境に立たされている業界、例えば飲食・観光・旅館業などに携わる人たちにこそ、持続して給付する仕組みを考えるべきだったと思います。そうすれば、今回の予算規模よりもはるかに少なく、しかし、本当の意味で支援が必要な人たちに給付できる仕組みができたのではないかと思います。


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