編集部(以下、──)政府は新型コロナウイルス対策として、約120兆円にのぼる財政出動を実施しました。
土居 10万円の特別定額給付金については本当に有効な政策だったのか疑問に感じています。受給者に現金支給する政策手段は、日本では年金、生活保護、児童手当などに限られます。高所得者に限っては10万円を配った後で所得税を増税するというパッケージで政策を講じるならまだしも、現時点でそうなっていません。
── 当初は、特定の世帯に30万円を支給することになっていました。
土居 本当はそれで良かったのではないかと思います。全員に10万円を支給することになった背景には、〝反緊縮〟の政治的圧力があったと考えます。つまり、「10%への消費増税」や「2025年までに基礎的財政収支を黒字化する」という財政健全化路線に対する政治的不満が「新型コロナという危機」を追い風にして、タガを外すことに加担してしまったのではないか、ということです。民意は「もっと出せ」ではなく、「いつ収束するか分からない不安を解消してほしい」ということだったのではないかと思います。
齊藤 私も同感です。緊急措置として、全員支給は仕方がなかったとしても、経済的に十分な余裕のある人からは、税金など何らかの形で回収する仕組みを同時並行でつくると思っていました。例えば、東日本大震災の際には、「復興特別所得税」という形で、震災後に税金を払える人から所得税とは別枠で回収する仕組みを設けました。
ところが、今回の定額給付金は所得とは切り離されてしまいました。つまり、国民のだれもが費用負担しない形で、財源論は最初から棚上げされたまま、本当の意味での〝ばらまき〟をしてしまった。
同じ財源があるならば、緊急事態宣言が解除されてもなお、苦境に立たされている業界、例えば飲食・観光・旅館業などに携わる人たちにこそ、持続して給付する仕組みを考えるべきだったと思います。そうすれば、今回の予算規模よりもはるかに少なく、しかし、本当の意味で支援が必要な人たちに給付できる仕組みができたのではないかと思います。