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2020年5月27日

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児玉 博 (こだま・ひろし)

ジャーナリスト

1959年生まれ。85年に早稲田大学卒業後、フリーランスとして活動。「堤清二 『最後の肉声』」(文藝春秋)で、第47回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞。近著に『起業家の勇気 USEN宇野康秀とベンチャーの興亡』(文藝春秋)。

 新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するために最前線に立ち続ける医療関係者たちの苦闘、苦難は多くの報道で知られるところだ。その一方で、最前線に立ち会いながらもあまり知られてはいない、ある業界がある。物理的にウイルス感染を阻止する消毒業界だ。

新型コロナウイルスの最前線で闘う特殊清掃員たち (UNISONS)

 一般的には極めて馴染みが薄い業界でもある。とはいいながら、新型コロナウイルスが蔓延する中、その予防的な措置を含めて、多い日には数百件の問い合わせが殺到するまでに必要とされている。

 現在、オフィスや工場などの消毒を担っている業者の大半は、「特殊清掃」と呼ばれる業者である。聞き慣れぬ言葉だが、その名称の通り、特殊な清掃、例えば孤独死、事故死などの遺体発見現場やゴミ屋敷の清掃、水害・床下浸水などからの復旧、消毒、清掃などを請け負っている業者である。

 新型コロナの感染者が滞在した場所はもちろん、予防措置として消毒してほしいという問い合わせが、その特殊清掃会社に引っ切りなしにくるようになっている。業界では作業員が足りないような状況が続いている。

 ある意味、東京電力福島第一原子力発電所の未曽有の事故により汚染された土地の除染作業にも似た「消毒作業」なのだが、福島よりも難しいのは、新型コロナウイルスの実態がはっきりとしない点だった。

感染リスクが警戒され
人材確保に難航

 豪華クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」。横浜港の岸壁に接岸されていたこの豪華客船は、ある時点まで日本の新型コロナ感染の象徴とも言うべき存在だった。

 陽性者の下船が続く2月中旬、ダイヤモンド・プリンセス号の運営会社は厚生労働省にある依頼をする。

 「船内を除菌、消毒する業者を紹介してほしい」

 厚労省はその依頼を受け、公益社団法人・神奈川県ペストコントロール協会に打診をするも、多くの乗員・乗客が残るゾーニングができていない今の船内では、消毒効果はない、と断られてしまう。

 困った運営会社は、除菌、消毒会社を公募入札する。落としたのは米国の大手「ベルフォア」。世界10カ国以上に拠点を持つグローバル企業である。同社は2011年の東日本大震災の復旧作業における清掃、消毒作業を担った会社でもある。同社にとっては、新型コロナ感染防止を最大限アピールスするのにはダイヤモンド・プリンセス号は格好の場所だった。

 最高経営責任者は防護服を身にまとい、米フォックスニュースのインタビューにも応じていた。この時、ベルフォアがダイヤモンド・プリンセス号船内の除菌、消毒に使った消毒剤は「Virox(バイロックス)」と呼ばれる〝加速化過酸化水素〟、要はオキシドール(過酸化水素)の弱点であった除菌スピードを加速度的に高めた消毒剤だった。

 ベルフォアが集中的に行ったのは船室の除菌、消毒。それ以外は、手が回らないとのことで、クルーズ船の運営会社は再び厚労省に相談する。

 「業者を紹介して欲しい」

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