2022年7月7日(木)

Wedge REPORT

2020年5月20日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

 ピンチはチャンスに変えられる。新型コロナ禍によってオンライン診療が認可されるなど、危機はそれまであった意味のない規制を浮かび上がらせ、抵抗勢力である霞が関を屈服させることとなった。今こそ、積み残しになっていた「岩盤規制」を壊し、「次の成長」に向けた基盤を作るチャンスにすべきだろう。企業もこの危機を「コロナ後」の成長に向けた基盤を作れるかどうかで、選別される時代に入る。

普段はビジネスパーソンや買い物客でにぎわう東京駅前の丸の内 (ANADOLU AGENCY/GETTYIMAGES)

 国税庁が5月1日、1本の通達を出した。アルコール度数の高い酒を手の消毒用として出荷する場合には酒税を課さないとしたのだ。新型コロナので蔓延で消毒用のアルコールが不足し、ドラッグストアなどの棚から姿を消して久しい。酒造メーカーは度数60度以上の「酒」を作ることが可能で、それならば消毒用に使える。一升瓶に入れて近隣の病院などに納めたいという声が上がったが、「飲むことが可能なアルコール」は酒税法で「酒」と定義され、酒税がかかるという難題が生じた。蒸留酒はアルコール度数に応じて酒税が上がる仕組みのため、高度数のアルコールだと、1升(1.8リットル)あたり1100円から1400円前後もの酒税を納めなければならない。

 そんな杓子定規の規制に批判が集まり国税庁はしぶしぶ非課税を決めたが、今回の措置はあくまで「臨時的な特例」という立場だ。「飲用不可」などとラベルを貼って消毒用として出荷することを求めている。一方で、無免許での製造や販売は酒税法違反に問われると、国税庁は注意を呼びかけるのも忘れない。

 新型コロナへの対応を機に、本当に必要な規制なのかを示す結果となった。消費税が導入されているのに、なぜ「酒」だけに高税率を課すのか。酒税が明治以来、国の税収の柱だったことが理由で、それが脈々と続いているにすぎない。ところが今や酒税収入は税収全体の3%を切っている。地ビールや地酒がブームになっても新規参入には高い壁が設けられ続けてきた。新型コロナ禍は、そんな「岩盤規制」自体を問い直すきっかけになっている。

 「予備費を使ってパソコンを支給したらどうか」。ある省の事務次官が厚生労働省の幹部にそんな苦言を呈していた。加藤勝信・厚生労働相が「テレワークの推進」を呼びかけている足元で、厚労省の課長補佐が、自宅に持ち帰れる業務用パソコンを支給されていないため、テレワークができないということが話題になった。パンデミック対策を考えてきたはずの厚労省ですら、交通が途絶し役所に通勤できなくなる事態を想定していなかったわけだ。

 首都圏のある自治体でも、緊急事態発令後も全職員が登庁して勤務に当たっていた。4月下旬になってようやく、職員の半数を在宅にすることを決めたが、「実際には自宅でできる業務はごく一部だ」とその自治体の幹部は話す。従来、業務に当たって、個人のパソコンを利用することは禁じられてきたからだ。在宅勤務で役所のホスト・コンピューターに接続できる権限を付与設定したパソコンは、1万人以上の職員に対してわずかに60台だという。情報流出などの防止を優先するあまり、テレワークせざるを得ない事態はこちらも「想定外」だった。

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