中国 覇権への躓き

2020年5月1日

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加茂具樹 (かも・ともき)

慶應義塾大学総合政策学部教授

専門は現代中国政治外交。1995年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同校法学部准教授等を経て2015年4月から現職。16年10月から外務省に転籍して在香港日本国総領事館領事を務め、18年10月に復職。

 鄧小平はかつて、「革命政党にとって恐ろしいことは、人々がしんと静まりかえることだ」と述べたことがある。歴代の共産党指導部にとって、国内および国外の世論の反応は、重大な関心事項であった。いかに世論に応え、誘導し、共産党にとって有利な環境を創り上げるか。習近平総書記率いる指導部は今、新型コロナウイルス感染拡大に対してもこの観点から動いているように見える。さらにはその危機を好機と捉えた外交を展開しようとしている。

イタリア・ミラノの空港で歓迎を受ける四川省の医療支援チーム
(AVALON/JIJI PRESS PHOTO)

 国内において指導部は、新型コロナの感染拡大を阻止するために講じてきた対処策について、社会からのさまざまな厳しい批判の目にさらされてきた。

 社会からの批判の核心は、指導部はいつ、蔓延(まんえん)する感染症への対策を優先して取り組むべき政策課題と認識したのか。それが適時だったのか、それとも遅れたのかである。

 当初、報じられた指導部の初動は1月20日であった。指導部はこの日に、新型コロナを法定伝染病と認定し、一地方都市の問題ではなく国家的規模の体制で対処すると決めた。同日に、習が重要講話を発している。そして25日には対処チームがセットされた。

 しかし後に報道は、初動が1月7日の共産党の会議での習の指示と報じた。中国国内の一部メディアは、指導部が1月6日までに武漢市における感染爆発の情報に接していた可能性を語っていた。そのため、7日の指示というのは絶妙に適切なタイミングだった。「共産党の喉であり舌である」中国メディアが、情報を上書きする報道をしたことに、何らかの意図があったと考えるべきだろう。

世論を誘導するどころか
逆に誘導される共産党

 実は、1月7日に指導部は中央政治局常務委員会を開催していた。おそらく習は、7日に武漢市の情報に接していて、関係部門に対処するよう指示したことは事実だろう。ただし、当時は国家的体制で対処する課題とは認識していなかったのかもしれない。その後さまざまな情報に接した習は、13日後に重要講話を発したのである。

 こうした初動日に関する情報の上書きは、指導部(党)が十分に制御できない空間でさまざまな情報が拡散し、批判を強める中国社会に指導部が応じたように見える。前衛政党である共産党は世論を誘導することになっているが、実際は世論に誘導されている。

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