2024年12月22日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2019年12月27日

 初の中国国産空母「山東」就役の意義

  • 初の中国国産空母である「山東」が、海南島三亜の海軍基地で就役した。
  • 原子力空母建設に向けて着実にステップを踏みつつある中国。
  • 北海艦隊に所属するはずの「山東」は、なぜ「南」に配備されたのか?
  • 狙いは3つ。
  • ①「一帯一路」構想に基づいた「空母外交」の展開。
  • ②米中核抑止の攻防最前線である「南シナ海」は譲れない。
  • ③蔡英文の再選が予想される台湾への圧力。

就役した「山東」(Imaginechina/AFLO)

 2019年12月17日、初の中国国産空母である001A型空母が、海南島三亜の海軍基地で就役した。就役式には、習近平国家主席も出席したという。同空母は「山東」と命名されている。しかし、「山東」は本来、北部戦区海軍(北海艦隊)に配備されると考えられていた。同艦が南部戦区海軍(南海艦隊)において就役したことには、中国あるいは中国海軍なりの理由があるのだろう。

 そもそも、同艦の名前が「山東」であることが、本来は北海艦隊に配備が予定されていたことを示している。中国海軍の艦艇は艦番号または艦名をみれば所属する艦隊が分かるのだ。中国海軍艦艇の命名は、1978年11月に中国海軍が発布し、1986年7月に修正を経た『中国海軍艦艇命名条例』によって基準が定められている。

 同条例は、「艦艇の名前の重複を避けるために、人民海軍艦艇名は厳格に区域によって区分されなければならない」としている。具体的には、

  • 北海艦隊は華北、東北、西北の14省市区の地名(遼寧、吉林、黒竜江、内蒙古、青海、甘粛、寧夏、陝西、山西、北京、天津、河北、山東、河南)
  • 東海艦隊は華東の7省市および新疆ウイグル自治区の地名(上海、江蘇、浙江、安徽、福建、江西、湖北、新疆)
  • 南海艦隊は河南および西南9省市区の地名(湖南、広東、広西、海南、四川、重慶、貴州、雲南、チベット)

 を使用するよう定めているのだ。同条例の規定に則れば、「山東」は、北海艦隊に所属する艦艇でなければならない。実は、2017年初め頃には、中国で001A型空母の艦名として「山東」が挙げられていた。艦名が変更されていないことも、何らかの理由によって、急きょ、南海艦隊への配備が決まったことを示唆するものである。

 就役した翌日の記者会見において中国国防部スポークスマンは、記者の質問に答えて、「海軍は定められた計画に則って、確実に順序だてて空母のプラットフォームおよび軍港・埠頭の建設を進めてきた。就役式の場所は、空母の試験、海上公試など全ての作業を総合的に考慮して決定されたものだ」と述べている。

 形式的な回答とは言え、「山東」が南海艦隊に配備されたのは、三亜基地の埠頭などの施設を使用することが海上公試を行う上で都合が良いからだという内容である。しかし、「山東」を南海艦隊に配備することを考慮して、計画的に三亜基地に埠頭などの施設を建設してきたのだろうか。

 中国海軍が三亜基地に、早くから、空母を係留できる埠頭を建設してきたのは事実である。2008年には、空母を係留可能な埠頭が三亜基地に存在することが、衛星写真によって確認された。また、報道によれば、2015年7月、三亜基地に、全長が米海軍の空母用埠頭の約2倍の長さの700メートルにもなる世界最長の空母用埠頭が完成している。

 しかし、この埠頭が「山東」用のものであるとは限らない。中国海軍による、これまでの艦艇建造の状況を見れば、異なる型の艦艇を同時に建造し、一定の期間を用いて検証作業を行なっている。しかし、空母の場合は状況が異なる。「山東」は、2017年4月に進水したが、原型である「遼寧」の進水からすでに5年を経ている。そして、タイプの異なる002型空母は、未だ、上海江南造船所で建造中なのだ。


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