2024年12月13日(金)

中東を読み解く

2019年7月11日

 ペルシャ湾の出入り口、ホルムズと紅海の出入り口であるバベルマンデブ両海峡の航行の安全を守るためトランプ政権が練ってきた「有志連合護衛艦隊」(センチネル作戦)が遂に結成されることになった。2、3週間以内にも始動する見通しだが、輸入原油の8割以上を同湾に依存する日本が参加するよう求められるのは必至。米国とイランが対決を続ける中、戦闘に巻き込まれる懸念も強い。

米原子力空母エブラハム・リンカーン( Stocktrek Images/gettyimages)

トランプの要求拒むのは困難

 「有志連合護衛艦隊」の結成は7月9日、米軍の制服組のトップであるジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長がエスパー次期国防長官、ポンペオ国務長官と会談した後、明らかにした。同議長によると、この構想は数日以内に最終決定され、2、3週間以内に有志連合艦隊への参加国がはっきりするとしている。同艦隊の結成については筆者がいち早く伝えてきた(『アメリカ「有志連合艦隊」を模索、海自派遣に決断迫られる日本』)。

 議長は現在、同盟国に参加を打診している最中だとし、参加国が当初は少なくても、順次増やしていけばいいとの考えを示した。参加同盟国として見込まれているのは、英仏などの欧州各国と、同湾のエネルギー資源に大きく依存している日本だ。軍事面での公平分担が持論のトランプ大統領はペルシャ湾でタンカー攻撃が起きたこともあり、「自国の船舶は自分で守るべきだ。なぜ米国が他国のために無償でシーレーンを守らなければいけないのか」と不満をぶちまけてきた。

 米国防総省はこうした大統領の意向を受け、同盟国による民間船舶の護衛を中心とした「センチネル作戦」の立案を進めてきた。ダンフォード議長によると、艦隊の指揮は米軍が取り、各国の護衛艦に監視活動で入手した情報を伝達、それぞれの艦船がタンカーなど自国の船舶を守りながら護衛航行する仕組みだ。

 米国のこの構想は過激派組織「イスラム国」(IS)に対抗した有志連合軍やソマリア沖の海賊船護衛活動が下地になっている。日本は海賊護衛については、海上自衛隊の艦船が現在も民間船舶を守る活動を続けている。仮にペルシャ湾に海自艦船を派遣することになれば、自衛隊法に基づき治安維持などを目的に実施する「海上警備行動」か、安全保障関連法で日本が集団的自衛権を行使する際の「存立危機事態」を適用することになるだろう。

 専門家の間では、実際に戦闘が起きていたり、掃海任務が課せられていない現状では、「存立危機事態」には当たらず、「海上警備行動」で対応するしかないのではないか、との意見が多い。しかし、ペルシャ湾近辺では、すでに5月から日本船籍も含め6隻のタンカーが攻撃を受けている。

 さらに6月20日には、イランによる米無人機撃墜事件が発生、これに対してトランプ大統領がいったんは報復攻撃を承認。攻撃10分前になって撤回するという戦争瀬戸際の状況になった。双方の緊張は続いており、いつ戦闘に巻き込まれてもおかしくない。こうした中で安倍政権はどういう決断をするのか。トランプ大統領の要求を拒絶するのは極めて難しいだろう。

 しかし、安倍首相が先月、イランを訪問して最高指導者ハメネイ師と会談したように、日本はイランと友好的な関係を維持してきた。有志連合護衛艦隊に参加した場合、イランとの関係が冷却化することを覚悟しなければなるまい。トランプ政権は最終的に、米国につくのか、イランにつくのかの二者選択迫ると見られ、安倍首相の胆力としたたかさが問われることになる。


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